ハリス氏 vs トランプ氏 TV討論の評価は?

――今回の討論会の総括を一言で表すと?

共同通信 客員論説委員 杉田弘毅氏:
ハリス氏が十分な戦略と準備を持って対応したのに対して、トランプ氏は「即興勝負」。戦略の違い、準備の違いが明確に出て、結果ハリス氏が勝利したということだと思う。

――討論会のキーワードに挙げてもらった「BAIT」(ワナに仕掛けるエサ)。ハリス氏はうまく仕掛けてそこにおびき出したということか。

共同通信 客員論説委員 杉田弘毅氏:
「生活必需品20%の税。これは“トランプ売上税”」。トランプ氏は減税、および関税を訴えてきているが、この関税。物価が上がって消費者の犠牲をこうむるという指摘があるが、これを(ハリス氏は)「Sales Tax」あるいは「消費税」というような命名をして、トランプ氏の腹が立つような表現をした。それから2つ目の話「トランプ氏の集会は途中で人々が飽きて出て行く」。ハリス氏は非常によく考えて言った話だと思う。彼女は移民について聞かれるが、アメリカ国民全体から見るとトランプ氏は「移民は規制する」という政策の方の支持が多い。それに対してハリス氏はそれに対抗する策がないので結果、その移民について回答している最中に突然この話を言い出した。時間を見ると98分の討論会の中で26分のところでこの話を出した。これに対してトランプ氏は「自分の集会はものすごい人が集まって熱狂的な集会だ」ということを誇ってきたわけなので、それがそうではないということを言われてしまった。実際メディア報道を見ると確かに人々はだんだん少なくなっている。トランプ氏がカーっとなったところでいきなり例の「ハイチ移民が犬や猫で食べている」というような話に入っていき、26分経ったときのこのやり取りからトランプ氏がどんどん脱線していき、議論にならなかった。3つ目は「トランプ氏は父親から4億ドルを相続した」。これもトランプ氏は「自分一代で大きくした」という自負の部分が崩された。

いろんな暴走が出てきて、「犬や猫を移民が食べている」と定かでないことを言ったり、次々に暴走、問題発言が出てきた。

一方で、ハリス氏にも事実と異なる発言や、重要な文脈を欠いて誤解を招く発言があった。例えば、「トランプ政権は大恐慌以来最悪の失業率を残した」「トランプ氏が大統領に返り咲いたら全米的な中絶禁止法に署名する」「金正恩とラブレターを交換した」。こういった発言があった。

――トランプ氏はもっと政策でハリス氏の責任を追及できなかったのか。

共同通信 客員論説委員 杉田弘毅氏:
トランプ氏は今回の討論会でもハリス氏のことを直に目を向けるということがなかった。やはりハリス氏を攻めにくく、苦手だと思っている。バイデン氏は同じ白人男性で、年上だということで、「スリーピー・ジョー(寝ぼけているジョー・バイデン)」とずばりバイデン氏の特徴・弱点を一言で示す言葉をトランプ氏が使った。ヒラリー・クリントン氏については「ロック・ハー・アップ」と要するに「刑務所に入れろ」という非常に極端な言葉でトランプファンは熱狂したが、ハリス氏についてはそういう言葉遣いができていない。なのでそこで攻めあぐねているという意識が元々あったと思う。それから2人のこのディベートに対する目的が違っていて、一つはトランプ氏は彼女の移民・経済政策ができてないということを言うつもりだったが、刺激されて到達できなかった。一方ハリス氏はそういった政策よりも、全米のテレビが見ている場で、人々が思っている「ハリス氏で大丈夫か」という疑念を払拭するということを目指した。そういう意味ではこの90分の一対一の討論会を彼女が乗り切って、逆にいうとトランプ氏を攻撃して追及して、踏ん張って頑張ったというところで、目的を達成できたと思う。

CNNが行った世論調査。「討論会全体の評価」としてはハリス氏が63%だったのに対し、トランプ氏は37%。一方で「経済・移民政策」「軍の指揮能力」では、トランプ氏が上回っており、「民主主義」と「中絶」についてはハリス氏がリードしている。全体の評価はハリス氏の方が高かったが、国民の関心が最大に高い2大テーマ「経済・移民政策」については討論会の後でも、トランプ氏の方がよくハンドルできるだろうといった人が55、56%で、ハリス氏は30%台。他の社がやった世論調査のその討論前の数字とあんまり変わってない。

――ハリス氏が国民を「経済・移民政策」で納得させられなかった。

共同通信 客員論説委員 杉田弘毅氏:
ハリス氏は漠とした「中産階級のための政策をやる」とか、「移民政策」については途中ではぐらかしてトランプ氏の集会の人数の話に持っていってしまった。全くかわしてしまったので国民としては不安が残る。ただそれよりも大きいのはハリス氏が全部で100分のディベートをとにかく乗り切ったと知れた。「この人やれるじゃないか」「まあまあいける」と。それまでだったら「この人は大丈夫なのか」と、「知らない人でいきなり大統領になれるのか」という疑問を払拭できたということの方が彼らにとっては大きな成果だ。

大統領選挙は激戦州の最後の浮動票はどちらが取るかで変わってくる。7州の全体の支持率。微妙な感じでネック&ネックになっている。各州で見るとどうなるか。

激戦7州のうち、ネバダ、ウィスコンシン、ミシガン、ペンシルベニアの4州はハリス氏がリードしている。一方アリゾナ、ジョージア、ノースカロライナはトランプ氏がリードしている。すべて2%以内の差で、ペンシルべニア州はついに0.1%平均でハリス氏が逆転した。

――この7州の中で一番の注目はどこか。

共同通信 客員論説委員 杉田弘毅氏:
もちろんペンシルべニア州だ。ウィスコンシン、ミシガン、ペンシルベニアいわゆる民主党の色から「ブルー・ウォール(青い壁)」と呼ばれているが、この青い壁を守りきれば南部(の票)を取られても民主党・ハリス氏は勝利できる。