勝利には5%リードが必要!? ハリス氏 vs トランプ氏 残り約50日 課題は?
――アメリカ大統領選挙。この先2か月の注目点・見どころだが、バイデン大統領の人気がなく支持率に大きな差があったところから、候補者が変わって急速にハリス氏が追い上げて、接戦に持ち込んだ。今はどういう段階か。
共同通信 客員論説委員 杉田弘毅氏:
この討論を経て、どれだけハリス氏が勢いを伸ばすかというとこがポイントだが、全米で0.1%ポイント、0が仮に1%ポイント2%ポイントになっても、だからといってハリス氏勝利の見通しが強まるとはならない。なぜかというと、トランプ氏の数字は世論調査では本当の票よりも低く出てしまう。今回もそういうことになると思う。例えば2020年にこれはバイデン氏が勝ったが、このときの10月末の世論調査では、バイデン氏がトランプ氏に対して7%勝っていた。ところが実際の票は約3%しかバイデン氏は勝たなかった。結局4%はどこかに消えてしまっている。それから2016年にヒラリー・クリントン氏とトランプ氏が戦ってトランプ氏が勝つが、この時も10月中旬にヒラリー氏はトランプ氏に21%のポイントで優勢だった。それでも負けた。これが「隠れトランプ」だが、今回はハリス氏が黒人女性ということあり、「ハリス氏はダメだ」ということを世論調査員に対して発言しにくいという傾向があると思う。それに対して「トランプ氏でいい」となるとあまりにも人種差別的、あるいは「昔に戻る」みたいな思考を明らかにしなくではいけないので、慎重になっている。ハリス氏が5ポイントぐらいリードして、特に激戦州でそのぐらいリードして、初めて可能性が出てきたといえるのかなと思う。
――ハリス陣営にとって、道のりはまだ厳しいと見るべきか。
共同通信 客員論説委員 杉田弘毅氏:
だからハリス氏はもう1回討論やりたいと言っている。今まだ動いていない人々は(ハリス氏の)「経済政策」と「移民政策」をもう少し見たいということだと思うので、そこを具体的に説明していく。しかも集会というのはハリスファンしか来ないのでそこで言っても意味がない。会見できちんと記者の厳しい質問に対しても答えるということをすべきだが、ハリス氏は逃げたままだ。これまでこうして伸びてきたので、記者会見は非常にリスキーなのでやらない方がいいというのがハリス陣営の考え方だったが、それでは勝利まではたどり着かない可能性がある。
――黒人や女性など従来ハリス氏が得意とする人たちで、バイデン氏に嫌気がさしていた人たちの票は少しずつ戻ってきたがそれでもまだ足りないということか。
共同通信 客員論説委員 杉田弘毅氏:
いろんな人種や所得階層を見ると、バイデン氏が2020年に勝ったときの各グループから得た票の割合をハリス氏はまだ取れていない。なので、今のままだと非常に危ない感じだ。だからこれからハリス氏は頑張って取らなくてはいけない。なんといっても白人男性。ハリス氏は一番苦手でここを取る戦略が見えてきていない。あとはトランプ氏がこれからどんどん失敗すると、票が来るという可能性はある。
――大統領選といえば「オクトーバー・サプライズ」という言葉があり、10月に驚くようなことが起きて大統領選挙に大きな影響を与えるということがあるが、今回も警戒した方がよいのか。

共同通信 客員論説委員 杉田弘毅氏:
これだけ僅差であれば、例えば2016年の「クリントン氏の私用メール問題」は、それなりに問題ではあるが、選挙結果を左右するほどの大きな問題かという気もする。ところがこれが10月末に出てきたら急に票がクリントン氏から逃げたということがある。一番可能性があるのは経済で大きな失速が始まって、「やはりバイデン・ハリスチームではダメだ」とかそれから中東およびウクライナにおける戦争。これが非常に大きな悪化に転ずるとトランプ氏が言っている「とにかく平和をもたらそう」という主張が説得力を持ってくる。
――最後に今回の大きな選挙戦の構図の話を伺いたい。前回は「閉塞感が強いアメリカ社会の中でチェンジをアメリカ国民は求めていて、それはバイデン氏でなくトランプ氏という感じが強かった」と言っていたが、変わったか?
共同通信 客員論説委員 杉田弘毅氏:
明らかに変わった。トランプ氏は今回3回目の大統領選挙。一期4年やっているし、発言してることは2016年と一切変わってない。それは聞き飽きたという人々が多い。特に若い人々はそういう古いトランプさんの政治信条に対しては拒否感を持っていると思う。ハリス氏の場合はまだよく知られていないが、新しい。しかも今回の討論で意外とタフでしっかりした人だということが出てきたので、ここはやはりハリス氏に1回やらせてみようというアメリカ国民の全体的なムードが流れていく可能性は大いにあると思う。
――「チェンジ」はアメリカ人のすごく好きな言葉。候補者がバイデン氏からハリス氏に変わったことで「チェンジ」はハリス氏を意味することになったのか?
共同通信 客員論説委員 杉田弘毅氏:
過去の大統領選で、トランプ氏も2016年に「チェンジ」で来たし、オバマ氏も2008年は「チェンジ」で来ている。やはりアメリカ人は10年ぐらい経ってると閉塞感が出て、そこを「チェンジしてくれる人に託す」。ハリス氏は「私は国民のために働きます」ということをカメラ目線でアピールして、トランプ氏は司会者との一対一で「言っていることは間違いなんだ」と(相手を)やり込めると。結局ハリス氏が言った「トランプ氏が気にしてるのは自分の評判だ」という言い方は出てきてしまっていた。
(BS-TBS『Bizスクエア』 9月14日放送より)