スーツ姿の“呪術医” 選挙でも暗躍

鈍い色をした壁の平屋が見えてきた。呪術医ジャンゴ・ムトンガ氏の診療所だ。

「呪術医」という言葉からは想像し難いかもしれないが、ムトンガ氏はスーツにブルーのYシャツ、ネクタイ姿で戸口に立っていた。胸のポケットからはチーフが覗く。頭頂部から後頭部を覆う短く刈り込まれた髪。額に刻まれた皺。挨拶をすると私の手を固く握った。ハスキーな、そして地を這うような低い声。

診療所の中はとても暗い。「ああ、呪術だしこうやって暗くないといけないんだな」と勝手に納得していたのだが会話の中で最近建てられたためにまだ電気が引かれていないのだということが判明し、自分がステレオタイプに囚われているのを恥じる。すみません。

呪術医に会いに来たのは、アルビノ襲撃にはだいたい呪術医が関係しているからだ。持ち込まれたアルビノの体を処置したり、売ったり。そもそもアルビノの体に特別な力がある、という迷信はどこから来るのか。それによって人が殺されていることについてどう考えているのか。ムトンガ氏が直接関与していないにせよ、呪術医のモノの見方を知りたかった。

ムトンガ氏は父親も呪術医で、その後を継ぐ形で呪術医になった。インタビューは主に英語(&時に現地のチェワ語)で行ったが、ムトンガ氏は自分たちのことをwitchdoctor (呪術医)ではなくtraditional healer(伝統療法士)と呼ぶ。そして彼はこの地域の伝統療法士協会の会長でもある。

どんな病気を治せるのか、と聞くと、「様々な病気を治療できますよ。ただHIV/AIDSは無理です」と言う。が、「AIDSについても、薬草をまだ見つけていないだけで、森のどこかにあるはずですよ」と当然のように話す。

現代医療にどっぷり浸かっていると奇妙に響くが、ムトンガ氏はサイドテーブルに置かれた何らかの枝、葉、粉などを見ながら続ける。「こういう薬を信じない人もいますよ。でもみなさん忘れているんです。その昔、病院も何もなかったころ、みんなこういう薬を使っていたんです」

ムトンガ氏が受ける相談は病気だけではない。

「勝負ごとに勝ちたかったら、それに合った薬を処方します。就職したかったら、そのための薬をお渡しします。面接者はあなたを選ぶでしょう」

そしてある地方議会議員の名前を挙げて、自分が当選させた、と豪語した。ジョンが言っていた「選挙の時期にアルビノ襲撃が増える」という言葉が頭をよぎる。でも、そもそも当選させた、って、どういうことなんですか。

「当選したい人に薬を与えます。すると、あなたが別の候補者に一票入れるつもりで投票所に行ったとしても、投票ブースでその人の名前を見たら、気が変わってその人に投票してしまうんです」

そう言うとムトンガ氏は白い歯を見せ、静かに笑った。こちらも釣られて笑う。「効くんですね」と相槌を打つと、少し真面目な顔になって「ええ、効くんですよ」と応じた。

どうやったらそんなことができるんですか?とても興味深いんですけど。そう聞くと、

「それは秘密です。教えるわけにはいきません」と、また少し笑いながら言った。