アフリカは黒人のもの、という呪縛

襲われ、腕を切り取られたり、殺されて、遺体を切り刻まれたりというのは最悪の出来事だが、そうでなくてもアルビノは差別に晒されながら暮らしている。実の親から拒絶されることもある。

ジョン自身、父親から拒絶され、幼少期は母親だけと暮らしていた。(その後、父親とは和解したという)。アルビノの赤ちゃんが生まれたことで、家族・親族間で「お前のせいだ」「いやお前のせいだ」と不和が生じ、家庭崩壊に至るケースも多い。

「アフリカは黒人のものだという概念があるからです。アフリカはブラック・コンティネントであり、アフリカはブラック・ピープルのものだ、という概念。黒人ファミリーに突如、白い肌の子供が生まれると、その子は居場所がなくなるんです」

「外国に行くことも多いけど、白人やアジア人と交流するのには何の支障もありません、でも…」と、ジョンは自分の肌を指さしながら言う。

「黒人たちは、“アフリカ人であるためには肌が黒くないといけない”と思っています。ここが黒くなければ、アフリカ人ではないんだ、とね」

降り出した雨がバスターミナルの金属の屋根に当たって立てる粒の細かいノイズに包まれながら、「アフリカは黒人のもの」というテーゼに深く考えず納得していた自分もいたな、と、頭の後ろのほうで一瞬考える。

その、一見まっとうなスローガンのせいで生きにくさを感じている人たちもいるのだ、と思い知らされた。

ジョンにとって音楽はその生きにくさから脱出する手段でもあった。この日の啓発イベントで最後に歌った歌は、観客の一部も一緒に歌っていた。何についての歌なんですか、と聞くと、ジョンは微笑みながら答えた。

「ラブソングですよ。“愛してる。出ていくならドアを閉めて行ってくれ。君以外にはもう誰も愛することはないだろうから“っていう、アルビノの話とは何の関係もない典型的なラブソングなんです」

歌うつもりはなかったが、聴衆からリクエストされたそうだ。

「歌い始めればみんな私がアルビノだとかもはや全然気にしません。音楽が良ければ、みんな踊り出して、その一瞬だけど、一つになれます。音楽には人を一つにする力があります。それが私の強みなので、これからも歌い続けますよ」

冷静に事実やデータを語りながらも背後にたぎる怒りを感じさせるジョン。ポジティブなトーンになったのは、この時だけだった。

インタビューを終えるころには、すっかり日が暮れていた。