ウクライナで、ロシア軍による民間人の殺害などの戦争犯罪を特定し、立証するために記録する取り組みを続けているのが、人権団体「市民自由センター(CCL)」です。
2022年、その功績が認められ、ノーベル平和賞を受賞しました。
その代表を務める、オレクサンドラ・マトビチュクさんが2月下旬、ウクライナの首都・キーウにある事務所でインタビューに応じました。
戦争の長期化で、彼女たちの活動はどう変化したのか。国際社会に訴えたいこととは。
Q&A形式でお伝えします。
Q.ロシアによる軍事侵攻が始まってから2年が経ちます。ウクライナでは民間人の死傷者は増え続け、ロシアによる戦争犯罪も増え続けています。皆さんの活動にはどのような変化がありましたか?
ロシアによる大規模な侵略が始まり、私たちは前例のない数の戦争犯罪に直面しました。ロシアが戦争犯罪をおかすのは、恐怖を植え付けるというメッセージです。ロシアがウクライナの人々の抵抗を断ち切ろうとしているのです。
私たちは、さまざまな地域の数十の組織と力を合わせ、ネットワークを構築し、この2年で6万4000件以上の戦争犯罪を記録しました。
Q.年月が経過することで、犯罪の数も増え続け、記憶をたどること、証拠を記録することは、より困難になっているのではないですか?
専門的な側面から言えば、私たちが直面しているのは、人間の苦痛です。私たちが記録するのは、例えば、生まれたばかりの子供を失った母親の悲しみです。この母親の痛みを記録することは、肉体的にも精神的にも消耗します。私たちは、人間として普通の生活と呼ばれるすべてのものを失った、ということです。
また、犯罪の「数」も困難な点です。ウクライナ検察は12万件以上の戦争犯罪について捜査を開始しました。戦時下にあって12万件もの犯罪を捜査する責任の重さを想像できますか?世界で最も優れた組織であっても、非常に困難です。国際的な支援が必要です。
そして、一番難しいのは、これらの犯罪を記録する目的は何なのか、という問題です。ロシアのプーチン(大統領)、ベラルーシのルカシェンコ(大統領)、そしてロシアの政治指導者と軍の最高司令部を「侵略の罪」で訴追できる国際的な裁判所はありません。しかし、残虐行為はすべて、この戦争を始めた指導者の決断に起因しています。将来的に戦争が起こることを防ぎたいのであれば、このような戦争を始めた国家とその指導者を罰する必要があります。だからこそ私たちは侵略犯罪を裁く特別法廷の設置に取り組んでいるのです。