「作家としての仕事、取り戻したい」

避難生活を送りながらも、なんとか「日常」を取り戻そうとする人もいる。

夫を残し、キーウから娘とともに逃れたイリーナ・メルニコワさんもその1人だ。24日、渋谷駅前の集会に参加した。

イリーナ・メルニコワさん

イリーナさんはウクライナで作家として活動していた。「トニー・ツイスト」の筆名で、子ども向けの小説や、探偵文学など数多くの作品を出版し、国内の複数の文学賞を受賞。ドキュメンタリー映画を制作した経験もある。

去年からウクライナで出版されている若者向けの雑誌に、日本での滞在記を寄稿している。そこには日本での暮らしで気づいたささやかな発見が記されていた。

イリーナさんの日本滞在記が掲載されている ウクライナの雑誌「同級生」

『日本』を直訳すると『日が出るところ』という意味ですが、これは本当です! ここでは太陽は熱く、蒸し暑く、まるで接近しているかのようです。 朝の4時に太陽の光で目が覚めてしまうので、毎晩分厚いカーテンで窓を隠しています。 カーテンは日本の生活に欠かせないものです(中略)日本人は皆、プライバシーや個人的な空間をとても大切にしています。 彼らは窓から人に見られることを嫌うのです(『ジャパン・ダイアリー』より)

軍事侵攻が始まる前までは、子どもなどを対象に小説の書き方や、映画の撮影を教えるオンラインスクールを運営していた。その経験を活かして、去年都内で他のウクライナ避難民に向けた「文章講座」のワークショップを開催した。自分の経験を書いたり、表現したりすることには、大きな力があると信じている。

イリーナ・メルニコワさん
「彼ら、彼女たちにとって非常に大事なことです。自分の痛みや以前の生活についてだけではなく、自分の変化について書いたり、どうしたら生活に喜びを得られるかということについて書いたりしています。書くことはセラピーのように精神的な回復の手助けをするんです」

夫と元通り一緒に暮らしたいという思いや、慣れない土地での不安を抱える中でも、イリーナさんは自分のライフワークをなんとか継続しようとしている。「自分のように母国を逃れた人々がどう立ち直り、生活を取り戻していくかについて伝えていきたい」。

今後は、日本での生活を映像で記録しドキュメンタリー映画として発表したいとも考えている。「悲しみや空襲警報についてではなく、戦争と直接は関わらない事柄について伝えたい」。

未だ終結の兆しが見えないロシアによる侵攻。この戦争は今後ウクライナの国や文化にどのような影響を与えるのだろうか。イリーナさんに尋ねるとこう答えた。

イリーナ・メルニコワさん
「もちろん戦争は悲劇です。私だけではなくて、ウクライナ人みんなが戦争によって変化した。生活は全く異なるものになり、当たり前のことをもっと貴重だと思うようになった。将来平和が訪れた時にも、私たちの考え方は大きく変化したままでしょう。戦争の前のように戻ることはないと思います」