(ブルームバーグ):液化天然ガス(LNG)は米国とイランの戦争で供給の5分の1が失われている。アジア新興国では調達コストが急増し、LNGの長期的な役割を見直す動きも広がり始めた。
2月末の戦争開始以降、ホルムズ海峡を経由したカタール産LNGの輸送はほぼ途絶えている。発電所や産業向け燃料として長期契約でLNGを購入していたアジア諸国は契約分の供給が途絶え、価格が高騰するスポット市場での調達を迫られている。
ブルームバーグ・ニュースが購入入札を分析したところ、中国を除くアジア新興国の主な買い手、インドとパキスタン、バングラデシュ、タイ、ベトナムは、戦争開始以降、スポットLNGの調達に計74億ドル(約1兆1400億円)を投じた。前年同期に同程度の量を長期契約で調達した費用は約31億ドルだった。
コストが2倍余りに膨らんだため、LNGが安定したエネルギー源だとの評価を損なう恐れがある。数年前にもロシアによるウクライナでの戦争で供給不足と価格高騰が起きたばかりだ。問題は、各国が足元ではガスを必要としている点にある。停電を招かずにエネルギー構成を短期間で変えるのは難しい。
ただ、長期的にはLNG依存から脱却する方策を探る国が増えている。太陽光や風力などの再生可能エネルギー、石炭、原子力、国内産ガス、パイプラインで供給されるガスなどが代替策となる。
ドイツのLNG買い手SEFEマーケティング&トレーディングのアジア担当エグゼクティブバイスプレジデント、ファビアン・コー氏は先週、シンガポールで開かれた会議で、「価格がこの水準にとどまれば、LNGは代替燃料との競争で苦戦するだろう」と述べた。
焦点となるのは数十億ドル規模の投資だ。LNGは今年まで、化石燃料の中で最も急速に需要が伸びてきた。環境負荷の大きい石炭から再生可能エネルギーへの移行を支える重要な橋渡し役とみられてきた。大手LNG会社の一つ、シェルは8月のリポートで、LNG需要が2050年までに65%増えると予想。主に南アジアと東南アジアが伸びをけん引すると見込んでいた。
この見通しがなお現実的かどうかは、今週バンコクで開かれる世界最大のLNG業界会議「ガステック」で議論される見通しだ。今年の開催国タイは先ごろ、50年までに電力の少なくとも65%を再生可能エネルギーで賄う目標を盛り込んだ長期エネルギー計画を公表した。天然ガスの比率はその分低下する。
太陽光発電は一部のアジア新興国で魅力的な選択肢になりつつある。バッテリー価格が過去4年間で30%強下落したことも追い風となっている。
ブルームバーグNEF(BNEF)のアナリスト、アクシャイ・モディ氏は、かつてLNGの高成長市場とみられていたパキスタンについて、ホルムズ海峡の混乱を直接受け、太陽光や水力による発電を増やす公算が大きいと指摘した。バングラデシュは、失われたカタール産LNGを補うため20億ドル超を投じており、消費者による太陽光パネル設置を促す優遇策を導入している。
石炭回帰も
ベトナムとフィリピンでは、石炭に回帰する可能性もあるとモディ氏はみる。国際エネルギー機関(IEA)によると、石炭の消費量は今年、過去最高に達する見通し。ガス価格の上昇に加え、強いエルニーニョの影響で冷房需要が増えていることが背景にある。
イランでの戦争を受け、各国はカタール以外の供給国も探している。カタールは戦争前、世界のLNG供給の約2割を占めていた。マッキンゼーの調査によれば、LNG買い手の約8割は今後数年間で調達戦略を変更し、供給地域の分散を優先する見通しだ。
これにより、アジアに直接供給しやすいプロジェクトへの関心が高まる可能性がある。仏トタルエナジーズと米エクソンモービルは、パプアニューギニアの「パプアLNG」計画を進めており、年内に最終的な投資判断が下される予定だ。米国やカナダも恩恵を受ける可能性がある。
既に、数年にわたる価格高騰でLNG利用の拡大は抑えられてきた。エネルギー経済・財務分析研究所(IEEFA)によると、フィリピンとタイ、ベトナムなどでは過去5年間に、計520億ドル規模のガス火力発電所47カ所が中止・撤回されたか、計画に進展がみられない。
IEEFAのアジアLNG・ガス調査責任者、サム・レイノルズ氏は「10年前の業界予測では、LNG火力発電が需要拡大の最大のけん引役になるとされていた」と指摘。「地政学的な紛争が一度起きれば大きな打撃となる。二度起きれば、一つのパターンと言える。アジア各国は、その現実を認識し始めている」と述べた。
原題:A $7 Billion Gas Bill Sees Developing Asian Nations Sour on LNG(抜粋)
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