ヒルトンの買収と「持たない」ビジネスモデルの威力

1990年代後半、市場の細分化が進む中で中級ホテルブランドを求めていた業界最大手のヒルトンは、1999年に40億ドルでハンプトン・インの親会社を買収します。ヒルトンという世界的ブランドのお墨付きを得たことで、ハンプトン・インの信頼性はさらに強固なものとなりました。

特筆すべきは、ヒルトンが展開するビジネスモデルです。現在、ヒルトンが展開する全8497軒のホテルのうち、自社で所有・賃借している物件はわずか47軒(1%未満)に過ぎません。ホテルを実質的に所有せず、維持費や管理責任をフランチャイズオーナーに委ねる「アセットライト(資産を持たない)」戦略をとっているのです。

ハンプトン・インの開発費は土地代を除いて1500万ドルからと安くはありませんが、見返りは絶大です。あるオーナーが「無料Wi-Fiと朝食付きの価値に感動し、ホテルを買うべきだと思った」と語るように、投資家にとっても極めて魅力的な商品となっています。ブルームバーグの分析によれば、昨年のアメリカにおけるハンプトン・インの販売数は9000万泊以上を記録し、競合を大きく引き離しました。世間の関心はきらびやかな高級ホテルに集まりがちですが、ヒルトンの成長と収益を力強く牽引しているエンジンは、間違いなくこのハンプトン・インなのです。

成功の秘訣は「当たり外れのない安心感」

開業から40年が経ち、現在では競合他社も無料の朝食やワッフルメーカーを導入し、1泊約125ドルという宿泊料金もほぼ横並びとなっています。では、ハンプトン・インは何が違うのでしょうか。

実は、提供されるサービス自体に大きな違いはありません。彼らの強みは、いち早く拠点を拡大したことで豊富な宣伝資金を持ち、常に改良に投資し続けられる点にあります。清潔さを象徴する「真っ白な寝具」の導入や、誰でも迷わず使える「シンプルな目覚まし時計」など、ベージュの箱型建物をいかに快適にするかという“科学”を追求し続けてきました。

旅行業界には一つの皮肉があります。人は新しい場所や刺激を求めて旅に出るにもかかわらず、いざ宿泊先となると「どこへ行っても変わらない安心感」を求めるのです。オバマ元大統領が「照明スイッチの場所がすぐに分かるからハンプトン・インがお気に入りだ」と語ったエピソードは、このブランドの真髄である「シンプルさと一貫性(当たり外れがないこと)」を見事に表しています。

アメリカの道沿いから、世界9000軒の頂点へ

現在、ハンプトン・インは1999年の買収時の1000軒から、世界3000軒超へと拡大しました。そして、彼らの視線はすでにアメリカ国内から広大な海外市場へと向けられています。

開発中の物件の半数以上は海外にあり、中国は今やアメリカに次ぐ巨大市場へと成長し、インドでも今後数年間で75軒の開発が予定されています。ヒルトンのCEOであるクリス・ナセッタ氏は、20年後の目標店舗数を「9000軒」と掲げています。

アメリカの道路沿いには、時代の波に乗れず消えていったホテルブランドの屍が数多く転がっています。しかし、時代に合わせて進化を続けながらも、決して変わらない安心感を提供し続けるハンプトン・インが時代遅れになることはないでしょう。異文化への適応という新たな挑戦を乗り越え、この「最強の普通のホテル」はこれからも世界中の旅行者を迎え入れ、美味しいワッフルを焼き続けていくはずです。