【記事の要旨】
・UAE・ドバイを拠点に暗号資産詐欺を繰り返すサム・リー氏の逃亡の実態
・約20億ドルの被害を出した「ハイパーバース」破綻と悲惨な投資家の末路
・法の目を掻い潜り自己責任とうそぶく詐欺師と、暗号資産の無法地帯の闇
20億ドルを奪った男サム・リー
「ネットが情報を民主化したように、私たちは通貨を民主化できる」――。「ハイパーバース」や「ブロックチェーン・グローバル」といった暗号資産(仮想通貨)プロジェクトを立ち上げ、フィンテック革命の旗手としてもてはやされた男、サム・リー氏。アップルの共同創業者スティーブ・ウォズニアック氏のような著名人からも支持を得ていた彼には、しかし、全く別の恐ろしい顔がありました。

2022年、彼が率いる暗号資産プロジェクト「ハイパーバース」が突如として破綻し、世界中の投資家たちが総額20億ドル近く(約3000億円)もの巨額の資金を失いました。アメリカ当局は、彼が約束していた高配当は新規会員の出資金を既存会員に回すだけのネズミ講(ポンジスキーム)や投資詐欺で賄われていたとして、リー氏を詐欺罪で告発しました。しかし彼は今も法の裁きを逃れ、アメリカと引き渡し条約を結んでいない中東・UAE(アラブ首長国連邦)のドバイから、悪びれる様子もなく新たな事業を宣伝し続けているのです。

洗脳空間とニセCEO 全てを失った投資家の悲劇
イギリスに住むルパート・ハニーウッド氏は、資産の半分を投じて全てを失った被害者の一人です。2021年8月、テクノロジー好きが高じてハイパーファンド(ハイパーバースの旧称)に投資を始めた彼は、毎週開かれる800〜900人規模のオンライン「リーダー会議」に参加するようになりました。

その集まりは前向きで高揚感に満ち、ルパート氏は「まるで教会のようだった」と振り返ります。リー氏の巧みな話術に魅了された会員たちは、「マイクロソフトに初期投資して一生配当を得る億万長者のような、勝ち馬に乗った」と完全に信じ込まされていました。住宅ローン完済を夢見て多額の資金を投入し、一時は画面上の利益が100倍以上に膨れ上がりました。
しかし、そのわずか2週間後、上級リーダーから「出金をすべて停止する」と突如告げられます。パニックを鎮めるために動画に登場して問題解決を約束したCEOは、後にただの雇われた役者だったことが判明しました。ルパート氏は激怒する妻に許しを請い、28年近く住んで幸せな思い出が詰まったマイホームを手放し、シェアハウスでの事実上の居候生活を余儀なくされました。「イギリスの詐欺対策機関に連絡しても折り返しすらない。彼がしかるべき裁きを受けることだけを望んでいる」と力なく笑います。

ニュージーランドから3年近くこの詐欺を追及し、1700本以上の動画で警鐘を鳴らし続けているダニー・デ・ヘク氏は、リー氏の手口をカルト宗教の洗脳になぞらえます。「彼らは高級車や豪邸を見せつけ、投資の助言を聞けば地上の楽園に行けると思い込ませます。しかし実体はなく、会員の金で回っているだけのおもちゃの紙幣です」と厳しく指摘します。
