(ブルームバーグ):中東の産油国はペルシャ湾から大量の原油をシャトル輸送している。イランでの戦争が長期化する中でも、原油相場の上昇を抑え、エネルギー価格高騰によるインフレ急伸への懸念を和らげる一因となっている。
事情に詳しい複数の関係者によると、探知されないようホルムズ海峡経由で原油を運び、オマーン湾でタンカーに積み替える輸送は、最近相次いだ船舶への攻撃にもかかわらず、フル稼働で続いている。
世界で最も重要なエネルギー輸送の要衝を人目につかないように通過するこうした輸送は、戦争勃発時に一段と深刻な供給ショックに身構えていた世界市場にとって、主要な生命線となっている。
ただ、関係者によれば、域内の産油国にとって状況は平常にはほど遠く、船舶は一定の軍事的な護衛を受けているにもかかわらず、繰り返し攻撃にさらされている。
こうした輸送は数カ月にわたり続いているが、位置情報をほとんど明らかにしないことで自衛しているため、こうした「ダーク」船舶がどれだけの原油を運んでいるかをトレーダーやアナリストが把握するのは難しい。
関係者の話では、輸送量は市場が推計する日量400万バレルを上回っている。関係者は情報の機微性を理由に匿名を条件に語ったが、具体的にどの程度上回っているかは明らかにしなかった。

イランでの戦争前には、世界の原油供給量の約5分の1に相当する日量約2000万バレルがホルムズ海峡を通過していた。ライト米エネルギー長官は先週、それまでの7日間に日量900万バレルが同海峡を通過したと述べた。この数字は推計される通過量の上限に近く、戦前の水準のほぼ半分に相当し、多くのトレーダーを驚かせるものだった。
攻撃の脅威にさらされながら続くこうした輸送は、北海ブレント原油先物が8月の大半を1バレル=80-90ドルで推移している理由の一つだと、トレーダーやアナリストは話す。これは紛争開始時に想定されていた最も警戒すべき水準からはほど遠い。一部では原油相場が150ドルに達する事態に備えていた。
探知を避けたダーク航行のシャトル輸送に加え、パイプラインによる迂回(うかい)輸送、備蓄の放出、世界的な需要減少が重なり、戦争に伴う経済への打撃を抑えている。
アラブ首長国連邦(UAE)のアブダビ国営石油会社(ADNOC)はこの記事に関するコメント要請に対し、「当社の船舶が繰り返し攻撃の標的となっているにもかかわらず、世界市場にエネルギーを安全に届け、顧客との約束と需要に可能な限り応える責任を引き続き果たす決意だ」と説明した。
その上で、「域内の他のエネルギー企業と同様、当社も従業員や船舶、施設に対する一方的な攻撃の直接的な影響を引き続き受けている。こうした攻撃は重要なエネルギー供給を混乱させると同時に、従業員や請負業者、船員を一段と大きな危険にさらしている」と指摘した。
ブルームバーグがまとめた船舶追跡データと、船舶データ分析会社ケプラー、ボルテクサのデータによると、UAEに加え、イラク、カタール、クウェート産の原油もホルムズ海峡経由で輸送されている。
シャトル輸送の活発化は、ホルムズ海峡の外側オマーン沖で鮮明に表れている。欧州連合(EU)の人工衛星センチネル1のデータによれば、巨大石油タンカーやばら積み貨物船など約150隻が洋上にとどまっており、1月の約40隻から増加した。このうち多くは、トランスポンダー(船舶自動識別装置)を切った状態でホルムズ海峡を出入りする船舶からの貨物積み替えを待っている。

UAEは過去数日に同国船舶に対するイランの新たな攻撃があったと伝えたが、輸送が減速する兆候はほとんどないと、UAEの原油輸送に詳しい関係者は明らかにした。ADNOCは既に世界各地の買い手に約1億3500万バレルの原油を販売しており、先週には新たな販売も実施した。
それでも、戦時下で大量の原油を輸出するのは決して容易ではない。ホルムズ海峡の通航に詳しい関係者によると、船舶が関係する事案は公に把握されているよりも多く、商船への攻撃のほか、海峡を通過しようとする貨物船に嫌がらせをする船舶を西側諸国の部隊が標的とする防御行動もある。
こうした事態は、世界のエネルギー価格を低く抑えることにリスクが伴うことをあらためて示している。ホルムズ海峡を通過中に複数の船員が死亡しているほか、域内では原油流出事故が増えている。先週にはオマーン湾で原油流出とみられるものが衛星画像に映ったが、流出元を示す兆候はなく、通航が秘密裏に行われている実態を浮き彫りにした。
ADNOCによると、紛争開始以降、同社の船舶23隻がホルムズ海峡の通過中に攻撃を受け、乗組員1人が死亡、20人が負傷した。影響は世界各地の企業や家計にも及んでいると同社は指摘する。
ADNOCは「エネルギー供給を支えるインフラへの攻撃は、単に一企業への攻撃ではない」とし、「ホルムズ海峡の混乱は、この地域で直接影響を受けている人々の範囲をはるかに超え、深刻な被害をもたらしている」とコメントした。
アジアの買い手によれば、攻撃によって輸送が遅れることもあり、遅延は通常短期間にとどまるものの、市場の不透明感を高めている。
サウジの動向
自国産原油の大規模なシャトル輸送をまだ行っていない国の一つがサウジアラビアだ。ただ、代替輸送ルートの紅海が、イランの支援を受けるイエメンの武装組織フーシ派の脅威にさらされ、ペルシャ湾内にあるサウジの港では活動が活発化する兆しが出始めている。
ペルシャ湾岸にあるサウジの巨大な原油輸出拠点ラスタヌラでは先週、船舶2隻が積み込みを行っているのが確認された。一方、同国のタンカー会社バーリは、シャトル船からの積み替えが行われるオマーン沖に船舶を着々と配置している。現在、超大型タンカー計16隻が同海域にあり、今後数日でさらに3隻が向かう予定だ。合計で3800万バレルを輸送できる計算となる。
石油会社サウジアラムコはコメントを控えた。バーリにコメントを要請したものの、返答は得られていない。
一方、最近では複数の企業がイラク産原油を購入し、ホルムズ海峡経由でシャトル輸送している。同国は中東紛争に伴い、原油の搬出に最も苦戦してきた湾岸諸国の一つとなっている。また、ブルームバーグがまとめた船舶追跡データと、ケプラー、ボルテクサのデータのデータによると、カタールとクウェートからの貨物もシャトル輸送によってホルムズ海峡を抜けている。
保険会社によると、さまざまな湾岸産油国から保険引き受けの依頼が途切れることなく寄せられている。
ギリシャを拠点とする商業・技術船舶管理会社ハイドマー・マリタイム・ホールディングスのパンカジ・カンナ最高経営責任者(CEO)は「これは実態が見えにくい取引だ」と述べるとともに、「全ての船主がリスクを取る意思があるわけではないため、現時点ではこれが唯一の選択肢だ」と語った。
原題:Covert Mideast Oil Flows Are Keeping Global Prices in Check(抜粋)
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--取材協力:Yongchang Chin.もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp
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