1秒間に刻まれた事実、データが示す「物理学的な答え」
手作業で導き出された波形データは、異変が発生した「18時24分35秒」からの、わずか「1秒余り」に起きた機体の異常な挙動を克明に捉えていた。それは、ネット空間上に広がる「外部からの飛翔体(ミサイル等)の衝突説」に対し、物理学の視点から明確な答えを提示するものだった。
川幡氏の解析による見解は、以下の通りだ。
▼第1の動き「前方への加速」
データは異常発生の瞬間、機体が前方へ加速したことを示していた。後部の圧力隔壁が破壊され、客室内の高圧空気が一気に後ろへ噴出したことで、機体が「前に進む推力」を得た物理的証拠となる。
▼第2の動き「下方への加速」
第1の動きの直後、機体は下方へ加速している。噴出した空気が垂直尾翼の内部を突き破り、尾翼を破壊したことで下への動きが加わった。
もし外部からミサイル等の物体が衝突したのなら、機体は衝撃で左右や前後に振れるはずである。この「前へ、そして下へ」という1秒間の物理データは「圧力隔壁の損壊から垂直尾翼の破壊に至る」という事故調査報告書の考え方を、物理学的に証明する根拠となった。
米ボーイング社で直面した「制度の壁」
川幡氏は、データ解析が終盤に差し掛かった頃、事故調査委員会のメンバーとともにアメリカへ渡っている。事故調の目的は、圧力隔壁の不適切な修理を行ったとされるボーイング社の担当者に直接面会し、聴取することだった。 川幡氏はアメリカの名門・プリンストン大学大学院で航空工学を学んだ経歴を持つ。日本の領事館員が同席しない場では「通訳」も務めた。この時、ボーイング側は頑なに関係者の聴取を拒否したという。
川幡長勝氏
「作業した人はもういないんだと、いないの一点張りでした。だいぶ質問しましたが、だめでした」
個人の責任追及を避け、再発防止を最優先するアメリカ側の思想と、真実の全容を知りたいと願う日本側のジレンマ。川幡氏の「だいぶ質問した」という短い言葉には、日米の制度の壁に直面した事故調査委員会の、苦労と悔しさがにじみ出ている。