なぜ今バイオプラスチックなのか

近年、バイオプラスチックへの関心が世界的に高まっている。これは気候変動対策、海洋プラスチックごみ問題、資源安全保障といった課題が背景となっている。石油由来のプラスチックは生活に欠かせない素材である一方、その製造・廃棄過程では温室効果ガスが排出され、適切に処理されなければ海洋汚染の原因にもなる。

経済協力開発機構(OECD)は、新たに大胆な新政策が導入されない限り、世界のプラスチック消費量は2019年の4億6,000万トンから2060年には12億3,100万トンに増加、廃棄物は3億5,300万トンから10億1,400万トンへ拡大すると予測した。また、国連環境計画(UNEP)も、現在のままではプラスチック汚染の社会的・環境的コストが極めて大きいとするが、政策と市場の転換があれば2040年までに汚染を80%超削減できると報告している。

バイオプラスチックは、循環社会の構築が求められる中、国際的な取り組みが進められている。欧州では、欧州委員会が2025年11月にバイオ経済を欧州経済の競争力を支える主要産業として位置付ける戦略的枠組みを採択した。

この戦略では、域内のバイオ経済が約2.7兆ユーロ(約440兆円)の付加価値を創出する基幹産業へと成長していることを踏まえ、化石資源への依存から脱却し、再生可能な生物資源を活用する産業構造への転換を加速させる方針を打ち出している。特に注目されるのは、2027年までにバイオプラスチックの最低含有率に関する法的目標(最低含有率制度)の導入を目指している点である。

あわせて、2030年までに100億ユーロ規模の需要創出を目指す「バイオベース欧州同盟」の設立や、承認プロセスを簡素化する欧州バイオテクノロジー法案の整備も進められている。

また、包装分野では2025年2月に発効した欧州包装・包装廃棄物規則(PPWR:Packaging and Packaging Waste Regulation)により、一部製品で生分解性が義務化された。対象はティーバッグ、コーヒーポッド、青果物用ラベル、軽量プラスチック袋などとなる。

日本でも、経済産業省、環境省、農林水産省、文部科学省は「バイオプラスチック導入ロードマップ」を策定し、2030年までに約200万トンのバイオマスプラスチック導入を目標として掲げている。

バイオプラスチック市場の拡大と技術革新

バイオプラスチックはどのような性質を持ち、どのような点が普及に向けた課題となっているのだろうか。バイオプラスチックは、植物など再生可能資源を原料とする「バイオマスプラスチック」と、一定条件下で微生物により分解される「生分解性プラスチック」に大別される。

食品包装、飲料容器、レジ袋、化粧品容器などでは企業のサステナビリティ経営を背景として導入が進んでいる。特にグローバル企業では、環境負荷低減をブランド価値向上につなげる戦略が広がっている。

一方、原料にも変化がみられる。従来はトウモロコシやサトウキビが中心であったが、近年は木質バイオマス、廃食油、藻類など食料と競合しない「第2世代原料」の開発が加速している。これは食料価格への影響を抑えながら持続可能性を高める動きとして評価できる。

さらに、生産設備への大型投資も相次ぎ、量産によるコスト低減が進みつつある。現時点では石油由来プラスチックより価格は高いものの、生産規模の拡大によって価格差は徐々に縮小すると期待されている。

もっとも、用途によっては耐熱性や耐久性など性能面で制約も残る。すべてをバイオプラスチックへ置き換えるのではなく、用途に応じて最適な素材を選択する考え方が現実的である。

このように、普及拡大を支えるのは環境政策だけではなく、技術革新と企業戦略の変化であり、今後は非可食原料の普及が重要となる。

普及に向けた課題と政策動向

ただし、バイオプラスチックには多くの利点がある一方、課題も少なくない。

普及に向けてはまずコスト面の課題が挙げられる。一般的に石油由来プラスチックより価格が高く、特に価格競争の激しい食品包装などでは導入の障壁となっている。

また、生分解性プラスチックに対する誤解も課題となる。「自然界ならどこでも分解する」と受け止められがちだが、多くは産業用コンポストなど特定条件下で分解される素材である。このため、不適切な廃棄がかえって環境負荷を高める可能性もある。生分解性プラスチックは用途を適切に選択して利用することが重要である。

こうした中、消費者が環境性能を理解できるよう認証制度や表示制度の整備も進んでいる。製品ごとの環境価値を見える化することで、価格だけではない選択基準を形成する狙いがある。

政府は「プラスチック資源循環戦略」において、3R+Renewableを基本原則として掲げ、再生材やバイオマスプラスチックの利用促進を進めている。公共調達やグリーン購入制度を活用した需要創出もその一環として推進されている。

十分に市場が拡大していない現段階では市場任せだけでは普及に限界があると考えられる。初期需要を公共部門が支え、量産効果による価格低下を促す政策は十分な合理性がある。

このように、バイオプラスチックの普及に向けた課題は素材の改良だけではなく、コスト、制度、消費者理解など社会システム全体に及んでいる。

循環型バイオエコノミーの実現に向けて

今後のバイオプラスチック活用推進においては資源循環の体制を構築し、その中で最適に利用していくことが求められる。例えば、長期間使用する製品には耐久性の高いバイオマスプラスチックを用い、回収が困難な農業資材や漁業資材などには生分解性プラスチックを活用するなど、用途に応じた使い分けが望ましい。

また、企業だけでなく消費者も循環型社会の主体的な担い手となる必要がある。環境価値を適切に評価し、多少価格が高くても持続可能な製品を選択する文化が広がれば、環境に配慮した製品の競争力向上にもつながる。官民一体となって、研究開発、認証制度、公共調達、消費者教育を一体的に進めることが重要だ。バイオプラスチックは万能ではないが、資源循環と脱炭素を支える重要な選択肢であり、技術革新と社会制度の両面からの活用推進が求められる。

(※情報提供、記事執筆:ニッセイ基礎研究所 金融研究部 准主任研究員・サステナビリティ投資推進室兼任 原田 哲志)