「エントリーレベルの事務」の担い手は若者ではない

もう一つ重要な点がある。日本の労働市場の特異性として、女性の非正規雇用の存在がある。特にAIに対する曝露度の高いとされる事務職では、中高年の女性、女性・非正規雇用者が大きな担い手となっている。今でこそ夫婦ともに正社員の世帯は一般化しているが、現在の50代以降程度の世帯は結婚・出産とともに女性が専業主婦になり、子どもが大きくなってから簡単な仕事に就く、というキャリアパスも珍しくはなかった。子育て後の中高年女性は現在も事務職雇用の中心となっている。AIによる事務職の淘汰が雇用調整として真っ先に及びやすいのはこの層であると考えられる。

日本ではAI失業は異なる形で表面化する

日本企業にとって新卒採用は「エントリーレベル職の担い手」としての性格だけでなく、将来の育成を通じた専門人材、幹部になるためのポテンシャル採用としての性格がある。企業はAIによるエントリーレベルの職の淘汰を見据え、新卒者を単に減らすのではなく、新卒者により高度な仕事を求める方向に舵を切っているように映る。ジョブ型雇用とメンバーシップ雇用のもとで「新卒者」の意味合いは異なり、海外で進行する「AIが若者の入口を奪う」現象は、日本では同じ姿では現れにくいのではないか。「AIによるエントリーレベルの仕事の淘汰」の影響を日本で真っ先に受けるのは社内で需給がだぶついている中高年層やエントリーレベルの事務業務の担い手となっている女性・非正規雇用層、だと予測している。「エントリーレベルの仕事=新卒の若者」という欧米型の単純な対応関係が成り立たないことが、異なるAI影響を生むことになるだろう。

参考文献
Lodefalk, M., Löthman, L., Koch, M., & Engberg, E. (2026). Same Storm, Different Boats: Generative AI and the Age Gradient in Hiring. Örebro University Working Paper 2/2026.

(※情報提供、記事執筆:第一ライフ資産運用経済研究所 経済調査部 主席エコノミスト 星野 卓也)