(ブルームバーグ):イーロン・マスク氏率いる米宇宙開発企業スペースXの新規株式公開(IPO)が世界の投資家の間で人気化している。
2350兆円の家計金融資産を持つ日本の投資家も高い関心を寄せており、スペースXは日本における募集金額を従来の上限20億ドルから20億-25億ドルに増額。円換算では約4000億円規模の株式を売り出す。2018年に国内通信大手のソフトバンクが上場して以降、今回と同規模のIPOは昨年3月のJX金属1社にとどまっていたため、久々の大型案件になる。
スペースXは総額750億ドル規模の売り出しで最大3割を個人投資家に割り当てる方向だ。この比率は米国のIPOでは異例の大きさで、米テクノロジー株が足元で乱高下する中でも多くの投資家は歴史的な投資機会と捉え、争奪戦を繰り広げている。
事情に詳しい関係者によると、スペースXのIPOには応募が殺到し、米国では機関投資家からの注文の受け付けを10日の取引終了後に締め切る見通しだ。
「マスク氏は個人的に尊敬している」と言う都内在住の萩谷月登さん(20)は、スペースXのIPOに参加を予定している個人投資家の一人。「宇宙には無限の未来を感じるが、倍率も高そうなので、宝くじの一等を当てる感じだ」と語った。
19年のサウジアラムコの294億ドルを抜き、過去最大となる見通しのスペースXのIPOに個人が直接参加できる国は限られており、日本やオーストラリア、カナダ、欧州の一部など。ブルームバーグの試算では、日本での募集分は調達総額の約3%。個人投資家に完売すれば、個人向け販売分全体の約1割を占めることになる。
オーストラリアでも個人投資家の関心は高い。現地メディアの報道によると、同国のオンライン証券コモンウェルス・セキュリティーズ(コムセック)で8日、スペースXのIPOに関する問い合わせが殺到し、投資家がコールセンターにつながるまで1時間近く待たされるケースがあった。コムセックはブルームバーグの取材に対し、規制上の理由でコメントを控えるとしている。
中国・香港投資家は買えず
日本以外のアジア市場では、スペースXのIPOに対する個人投資家のアクセスが限られている。
事情に詳しい関係者によると、重要技術の輸出に関する米国の規制を理由に、引受金融機関は中国や香港の投資家からの注文を受け付けないよう指示された。約1億3000万人のインドの個人投資家は、海外の証券口座を通じて現地のIPOに参加できるが、多くの証券会社は米IPOの申し込みを認めていない。
今回参加できない個人は、さまざま方法で投資機会を手に入れようと躍起だ。韓国のオンラインコミュニティーでは、スペースX株を保有する大型ハイテク銘柄、将来的な組み入れが見込まれる宇宙関連の米上場投資信託(ETF)の先回り買いなど間接的な保有に向け情報交換が活発化している。
一方、個人マネーが潤沢な日本はスペースXにとって多くの資金を獲得できる格好の市場だ。日本銀行の資金循環の日米欧比較によると、家計金融資産に占める現預金の割合は昨年3月末時点で日本は51%と、米国の11.5%やユーロ圏の31.8%を大きく上回る。国内での販売を担う証券会社には楽天証券やSBI証券といった大手ネット証券が含まれ、個人投資家を取り込む狙いがうかがえる。
伊藤忠総研の武内浩二マクロ経済センター長は「日本の個人マネーは海外からも注目されている」と話し、今回のIPOではマスク氏を評価する投資家層の存在も想定し、日本市場を重視した可能性があると分析した。
POWL
日本での募集は、国内取引所に上場せずに株式を公開・販売する「POWL(上場を伴わない公募・売り出し)」と呼ばれる手法が使われる。上場に伴うコストや事務負担を抑えつつ、日本の個人などから資金調達できることがメリットだ。
過去には米クレジットカード大手のビザやエネルギー会社の中国神華能源などが採用し、直近では3月にソフトバンクグループ傘下のPayPayが米国でIPOを実施した際、日本の投資家向け販売で活用した。
野村ホールディングスでアジア株式資本市場(ECM)部門の責任者を務めたフィリップ・エスピナス氏は、スペースXの日本での募集について「まさにPOWL制度が念頭に置いていたIPOの典型例だ」と指摘。知名度が高く、大型発行体による案件で「日本の個人投資家から価格に左右されない大きな需要を生み出す可能性がある」とみている。
スペースXに飛びつこうとする日本の個人投資家にとって、日米のIPO市場の違いには留意が必要だ。日本では上場初日に売れば必ずもうかる「IPO神話」への崇拝が強く、他市場と比べその傾向は顕著となっている。過去5年を対象にしたブルームバーグの集計では、IPOで株式を購入し、上場日に初値で売却した場合の平均収益率は日本が45%で、米国は26%(特別目的会社除く)にとどまる。
日本在住の個人投資家で40代のファン・ユジンさんは、最近はIPO銘柄が期待感から上昇した後に大きく値下がりするケースが多く、自身も損失を出した経験があると明かした。スペースXは宇宙セクターの代表銘柄になると予想するが、人工知能(AI)インフラなど他の事業に対する市場の評価も確認し、「株価がある程度安定してから検討したい」と述べた。
三井住友トラスト・アセットマネジメントの上野裕之チーフストラテジストは「夢を買うような感じになるが、話題性として面白い」と評価。日本では電気自動車(EV)のテスラがステータスになるなど「マスク氏が好きという人が米国より多い」とも話し、IPOの需要倍率は相当高くなり、個人が新たに株式市場に参入するきっかけになり得るとの認識を示した。
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--取材協力:エディ・ダン、我妻綾、Rajesh Mascarenhas、Carmeli Argana、Youkyung Lee、Sangmi Cha.
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