行き場を失ったマネーがAI・半導体関連株に回帰
6月8日の米国株式市場は、前週末の雇用統計後にAI・半導体関連の株価が大きく下落した後の反動に終始した。前週末は強い雇用統計の結果を受けた利上げ観測の高まり(金利上昇)が嫌気され、それまで資金集中が指摘されていたAI・半導体関連の株価が大きく下落していた。この日はこの動きが一部巻き戻された格好で、ナスダック指数が前日比+0.9%、SOX指数が同+5.6%だった。
後述するように、この日も利上げ観測は高まり、米金利は上昇したことから、株式市場への逆風が止まったわけではない。それでもAI・半導体関連株が買い戻された背景としては、マネーの行き先がないという問題があるのだろう。そもそも、原油高によるインフレ懸念が金利上昇懸念のベースにあることから、債券は買いにくい状況が続いている。AI・半導体関連株に高値警戒感があることは事実だが、インフレ高進によって家計が疲弊していることを考慮すると、景気敏感株に資金を振り向けることも得策とは言えない。他方、コロナ後は金利上昇によって米経済がリセッションに陥るという見方は何度も外れてきた実績があり、キャッシュやディフェンシブ銘柄に資金を振り向けることにもリスクがある。結局は、消去法的にAI・半導体関連株が買われる流れはそう簡単に変わらないだろう。
これまでの株価の上昇ペースが速かったことも、投資家がAI・半導体関連株を安全資産とみなしてきた(資金の退避先としてみなしてきた)ことが背景だろう。仮に投資家がリスク資産としてAI・半導体関連株を買っているとすれば、リスクに見合った目標リターンなどがあることが想定され、一定の成果が得られれば利益を確定して安全資産に入れ替えることが考えられる。しかし、AI・半導体関連株が安全資産だという前提であれば、目標とされるリターンもなければ、利益確定後に振り向ける先もなくなってしまう。
行動経済学でも、人々は利益を得ようとするときよりも、損失を回避するときの方が非合理的な意思決定をしてしまうことが知られている(損失回避)。AI・半導体関連株が選好される流れが転換点を迎えるには、より安全な投資先が注目される必要がある。伝統的な安全資産である米国債にその役割が期待される。きっかけは雇用統計なのか、インフレ指標なのか予想することは難しいが、市場においてディスインフレというテーマが生じるか、注目する必要がある。
家計のインフレ予想は安定的で、利上げはあったとしてもパフォーマンス
6月8日の米国債券市場は、インフレ懸念が続く中で軟調な展開が継続した。アジア時間にはイランとイスラエルの攻撃の応酬によって原油高が進んだことで、金利上昇圧力が強くなった。その後、両国は攻撃の停止を表明し、金利に低下圧力がかかる局面もあったが、「イスラエルはレバノン南部への攻撃を続けていて、レバノン情勢をめぐるイランの反発がアメリカとの戦闘終結に向けた協議に影響」(NHK)すると考えられ、不透明感は強い。
長期金利は前日差+3.2bp、2年金利は同+1.5bpだった。FF金利先物市場では、年内の利上げ回数の織り込みが約1.1回と、前営業日の約1.0回から小幅に増加した。
この日、NY連銀が公表した5月の消費者調査によると、1年後のインフレ期待は+3.46%と、前月の+3.64%から低下した。3年後も+3.1%と、前月の+3.15%から低下した。5年後のインフレ期待は+3.02%と、前月の+3.01%から小幅に上昇した。いずれにせよ、長期のインフレ予想が高まっている様子はない。これらのデータは21-22年のインフレ局面と比べてかなり落ち着いている。例えば、3年後のインフレ予想は21年10月には4.21%まで上昇していた。
今後、FRBがインフレ圧力に対して対応する姿勢を示すための利上げを実施する可能性は否定できない。しかし、あったとしても利上げはパフォーマンスの域を出ないと予想され、大幅かつ継続的な利上げが実施される可能性は低い。
(※情報提供、記事執筆:大和証券 チーフエコノミスト 末廣徹)