価格変動リスク:投資を続けられる条件を考える
資産運用を始めると、保有する投資信託や株式の評価額は日々変動し、ときには投資元本を下回ることもある。価格変動リスクは、資産運用において最も直感的に理解しやすいリスクだ。評価額の下落は、投資家に不安や迷いを生じさせ、積立投資の中断や保有資産の売却にもつながる。
こうした価格変動への受け止め方には個人差が大きい。同じ下落率であっても、投資を続けられる人もいれば、途中で方針を変えてしまう人もいる。その違いは、単に損失を気にしない性格によって決まるものではない。家計の客観的な条件と、投資家本人の心理特性の両面に左右される。
(1)客観的条件:家計が下落に耐えられる余地
まず重要なのは、運用期間の長さである。年齢が若く、運用期間を長く取れる人は、一時的な下落から回復を待つ時間的余裕がある。短期的な評価損がすぐに資金需要に直結しにくいため、相場下落時にも運用を継続しやすい。
次に、所得や金融資産の水準である。所得や金融資産に余裕があれば、運用資産が下落しても、生活資金を確保するために不利なタイミングで売却する必要が小さい。現在の所得水準だけでなく、将来の収入をどの程度見通せるかも、価格変動への対応力を左右する。
固定的な支出の重さも見逃せない。住宅ローンや教育費などの支出があること自体が問題なのではない。それらの支出が家計全体に対して過大であり、生活防衛資金も十分でない場合、相場下落時や収入減少時に運用資産を取り崩す必要が生じやすい。
ただ、これらの条件をすべて満たす個人投資家は限られる。若年層は運用期間を長く取れる一方で、所得や金融資産が十分でないことが多い。中高年層は金融資産に余裕があっても、運用期間は相対的に短くなる。価格変動に強い属性を持つ人だけが投資をするのではなく、自分の条件に合わせて投資額や資産配分を調整することが重要になる。
(2)主観的条件:心理特性が生む負担
家計に客観的な余裕があっても、心理的な負担は生じる。行動経済学の基礎となるプロスペクト理論では、人は利益と損失を非対称に評価し、同じ金額であれば利益よりも損失を大きく感じやすいとされる。この損失回避の傾向により、評価損が出れば不安や後悔が生じやすい。
さらに、長期投資をしているつもりでも、評価額を頻繁に確認すれば、心理的には短期の損益に反応しやすくなる。Benartzi and Thaler(1995)["Myopic Loss Aversion and the Equity Premium Puzzle." Quarterly Journal of Economics]は、損失回避と頻繁な評価が組み合わさる「近視眼的損失回避」により、株式保有のハードルが心理的に高まると指摘した。スマートフォンのアプリなどで損益をいつでも確認できる現在の環境では、この問題はより身近になっている。
(3)設計による対応:資金区分けと確認頻度
こうした客観的・主観的な制約のもとで投資を続けるには、まず投資する資金と生活資金を分けておくことだ。生活防衛資金や近い将来使う予定のある資金は、預貯金など安全性・流動性の高い資産で確保する。投資は長期で使わない資金に限定し、資産価格の変動が家計に与える影響を小さくする。これは価格変動そのものを小さくする対応ではないが、価格変動によって不利なタイミングで売却を迫られるリスクを抑える。
あわせて、損益の確認頻度を抑えることも重要になる。長期投資を続けるうえで、毎日の評価額を確認する必要はない。確認頻度を意識的に下げることは、近視眼的評価を抑える有効な手段だろう。
まとめれば、価格変動リスクへの対応とは、価格変動を最小化することではなく、投資目的や家計状況に照らして、価格変動があっても保有を続けられる形に投資を設計することだ。価格変動に対応できなければ、投資を続けるのが難しくなる。これは投資対象が本来生み出すリターンを享受できないという行動リスクにもつながる。これが、次に見る論点になる。