ベッセント米財務長官は、円相場を下支えしたいと考えていた。そこで、手元に置いたメモ帳を報道陣に見えるようにした。そこには「日本円を50億-100億ドル購入」と書かれていた。

異例の戦術だが、それはベッセント氏らしいやり方でもある。かつてベッセント氏は、ジョージ・ソロス氏の下で大規模な為替取引に携わり、10億ドルを稼いだ実績を持つ。トランプ政権で財務長官となってからは、アルゼンチン向けに高リスクの支援策を打ち出した。そして今、同盟国である日本の支援に乗り出している。

日米が共同で円相場を支える今回の取り組みは、約30年ぶりとなる。メモ帳を使った演出に加え、ベッセント氏は米国が保有するユーロの活用や、日本が利用可能な米連邦準備制度理事会(FRB)の制度に言及するなど、一部の財務省関係者を驚かせるさまざまな手段を講じている。

Photographer: Andrew Harnik/Getty Images

「彼は、『自分がトレーダーだった頃なら、これは良い一手だっただろう』という発想で物事を考えているようだ」と、ビーコン・ポリシー・アドバイザーズの共同経営者で元財務省高官のスティーブン・マイロウ氏は語った。「彼は従来の財務省の役割にとらわれず行動することに非常に慣れている。彼の土俵は伝統的な財務省ではなく、市場での信認だからだ」

初期の成果は好調で、介入を受けて円は約40年ぶりの安値から反発した。市場参加者がこの上昇の持続性を見極めようとする中、ベッセント氏は4日、さらなる対応を示唆。円安によって、アジア全体に通貨安が広がるリスクが高まっているとの認識を示した。

こうした一連の対応が、経済外交へのより積極的な取り組みを示すものだとすれば、その背景にはベッセント氏のキャリアがあるのかもしれない。ゴールドマン・サックス・グループ出身であるヘンリー・ポールソン氏やロバート・ルービン氏ら歴代財務長官の多くは、いわゆるセルサイドの金融業界出身で、リスク管理を重視する立場だった。

しかし、数十年にわたりヘッジファンド業界で活動してきたベッセント氏は、それとは異なる。

「真のバイサイド出身者はこれまでいなかった」とマイロウ氏は指摘する。「彼は従来型の財務長官というより、マクロトレーダーのように行動している」

ベッセント氏は6月にニューヨーク・エコノミック・クラブで行った講演で、自身の経済外交の理念を説明した。その実践の一部は、米国と足並みをそろえる意思のある国々を支援することにある。

米国にも利益

トランプ大統領は2日、円買い介入について言及し、米国は「金銭的な利益」を得ると述べたものの、その内容については詳しく説明しなかった。ベッセント氏は、日本市場の動向が米国債市場へ波及することへの懸念を示している。両氏は日米同盟の重要性についても繰り返し言及している。

ベッセント氏は2日、円支援に向けた日米共同介入を認め、「トランプ政権は米国の信頼できるパートナーのために成果を出す」とXに投稿した。さらに7月31日の閣議では、記者団に肩越しからメモ帳が見えるようにし、その中で円買いを「ToDo(やるべきこと)」として記されていたことが注目を集めていた。

ベッセント氏は4日、CNBCのインタビューで「私の肩越しに見ていた記者全員に、日本円を表す記号が『JPY』だと知ってもらいたかっただけだ」と語った。また、米国がユーロを使ったことも認めた。これについてアナリストは、ドルへの下押し圧力を抑える狙いだったとみている。

ヘッジファンドのトレーダーであれば、成功した賭けからすぐに利益を確定して手を引くことができる。しかし、そのような選択肢は財務長官には必ずしもない。昨年のアルゼンチンへの賭けは、トランプ氏の盟友であるミレイ大統領が議会選挙で予想外の圧勝を収めたことで報われた。

現在、ベッセント氏は自身の信認の一部を円相場に懸けている。円は、日本の財政運営への懸念や、日銀の緩やかな利上げペースを背景に、投資家から売られやすい状況が続いている。

INGのグローバル市場責任者クリス・ターナー氏は、ベッセント氏が活用した財務省の為替安定化基金(ESF)に触れた上で、「アルゼンチンと日本の事例を総合すると、財務省はより幅広い経済・地政学上の目的を支えるため、ESFを活用することに以前より積極的になりつつあることがうかがえる」と述べた。

さらに、「これは過去20年余りの米国の為替政策を特徴づけてきた比較的消極的な姿勢からの顕著な転換だ」とも指摘した。

ベッセント氏は、トランプ政権内での強い立場を背景に、こうしたリスクを取ることができている。その一端がうかがえたのが4日、トランプ氏が見守る中、ベッセント氏が新たな国家情報長官となったジェイ・クレイトン氏の就任宣誓を執り行った際のことだった。5日には、中間選挙を前に政権の実績をアピールするため、ジョンソン下院議長とともにアリゾナ州を訪問する予定だ。

事情に詳しい関係者によると、ベッセント氏とラトニック商務長官は財務長官ポストを巡るライバルだったものの、ラトニック氏が7月31日の閣議を欠席したため、ベッセント氏はその後、円買い介入を巡る協議内容についてラトニック氏に説明した。

ベッセント氏は、アルゼンチンと日本への対応の背景には、より広い戦略的な狙いがあることを明確にしている。アルゼンチンについては昨年、ミレイ大統領の選挙勝利が中南米で中道右派勢力への流れを強める可能性があると指摘した。実際、その後はコロンビアとペルーで保守系候補が大統領選挙に勝利した。

日本については4日、円安は日本のインフレの「問題」だけでなく、アジアの他の多くの通貨にとっても課題になるとの見方を提示。「円が大幅に下落すれば、他の通貨もそれに追随することになる」と述べた。

日本への深い知見

ベッセント氏は日本に関する豊富な経験を持つ。これまで50回以上日本を訪れており、そのうち3回は財務長官就任後だった。

2010年代初めには、現地の実情をより深く把握するため、毎月のように日本へ足を運んでいた。かつての上司だったソロス氏は、安倍晋三元首相が日本経済のデフレ脱却を目指す改革を進めた際、円安を見込んだ取引で10億ドル超の利益を上げた。

ベッセント氏は日本経済にも強い関心を寄せ、日本側の関係者と緊密に連携してきた。そうした相手には、片山さつき財務相や日銀の植田和男総裁がおり、ベッセント氏は植田氏を長年の友人と呼んでいる。

ソロス氏の下で働いていた当時、ベッセント氏は著名なヘッジファンド運用者スタンレー・ドラッケンミラー氏とともに勤務していた。ドラッケンミラー氏は後に、現在の米連邦準備制度理事会(FRB)議長であるウォーシュ氏の指導役を務めた。

ウォーシュ氏は4月の上院承認公聴会で、政権の「経済外交アジェンダ」への支持を表明したが、FRBにどのような役割を期待しているのかについては具体的に説明しなかった。

上院承認公聴会で証言するケビン・ウォーシュ氏(4月)

一方、ベッセント氏はそうではない。2日に続いて4日にも、ベッセント氏は日本が保有する1兆ドル超の米国債を直ちに大量売却することなく円買い介入を支援できる可能性があるFRBの制度に言及した。

ベッセント氏はCNBCで、「FRBの外国・国際通貨当局(FIMA)向けレポファシリティーは非常に強力な制度であり、まさにこのような局面を想定して設けられたものだ」と述べた。

原題:Scott Bessent Draws on Hedge Fund Instincts to Help Rescue Yen(抜粋)

--取材協力:Hadriana Lowenkron、Greg Ritchie.

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