(ブルームバーグ):米大手企業の間では、従業員に人工知能(AI)活用を促す一方で、その利用を制限する動きも出てきた。AIへの投資を正当化する必要に迫られる一方、コストの増大を受けて利用拡大を抑えたいとの思惑の間で揺れているためだ。
事情に詳しい関係者によると、ウォルマートは社内業務を支援するAIエージェントについて、従業員による利用に上限を設けた。ウーバー・テクノロジーズは一部のAIコーディングツールを巡り、従業員1人当たりの月額利用額をツールごとに1500ドルまでに制限している。同社はアンソロピックのAIコーディングツール「Claude Code(クロードコード)」向けに確保していた年間予算をすでに使い切ったという。
業界を問わず、企業はAIの計算処理量を測る基本単位である「トークン」を大量に消費している。このため、一部の企業はこれまでの野放図な利用を認める姿勢を見直さざるを得なくなっている。
これは、社内外のさまざまなAIツールを積極的に試すよう従業員に促したり、利用を強く求めたりしていた従来の方針とは対照的だ。アクセンチュアやコインベース・グローバルなどは、AIを受け入れなければキャリア形成や、場合によっては雇用そのものに影響が及ぶ可能性があると従業員に伝えていた。スターバックスでは、技術部門の従業員に支給されるボーナスの25%が、AI導入を含む部門全体の目標達成度に連動する。

グーグル親会社アルファベットのスンダー・ピチャイ最高経営責任者(CEO)は、同社のAI製品の月間利用量が過去1年で7倍に増えたと明らかにした。同氏は5月19日に開催された開発者会議で「まだ5月にもかかわらず、多くの企業がすでに年間のトークン予算を使い切ったと聞いている」と語った。
ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)で顧客企業のAI導入支援を手掛けるマット・クロップ最高技術責任者(CTO)は、「企業が従業員にAIの活用を促してきたのは適切な対応であり、トークンコストの上昇は問題ではなく、むしろAI活用が広がっている証しだ」と指摘する。
そのうえで「AI向け予算をどのように組むべきかを理解している企業はまだ少ない。従業員もこうしたツールを効果的に活用する方法を学んでいる段階であり、無駄な利用が生じていることは確かだ」と付け加えた。
ビジネス・インサイダーの報道によれば、アマゾン・ドット・コムは、いわゆる「トークンマキシング(トークン使用量の最大化)」を抑えるため、社内でAI利用量を競うランキングを廃止した。このランキングによって一部従業員は、課題解決には必ずしもつながらないものの、順位を上げるための作業を行っていたという。
AIは個人や小規模チームの生産性を短期間で高めることができる。例えばマッキンゼーでは、従業員がデータの収集・分析に費やしていた時間を30%削減している。
現場が混乱
しかし、その効果を企業全体のコスト削減につなげるには、さらに大きなハードルがある。ベイン・アンド・カンパニーが実施した最新の調査によると、多くの大企業は膨らみ続けるAI投資を実際の業務効率化の成果で正当化できずにいる。その結果、何が求められているのかが見えにくく、現場では混乱も生じている。
業務管理ソフトウエアを手掛けるリージグのシボーン・サベージCEOは「企業はAIをなぜ使うのかという明確な計画もないまま、従業員に対して誰が最も多くAIを使うかを競わせてきた」と指摘。「当時の方針は、とにかく利用量を増やせというものだった。そうした企業の一部は今になって方針転換しており、現場に混乱を招いている。私が従業員なら、経営陣の判断に疑問を抱くだろう」と述べた。
BCGが1月に公表した調査によると、多くの企業は、たとえ2026年中に投資効果が現れなくても、AIへの投資を継続する考えだ。
ただ、企業はAIの利用状況をこれまで以上に厳しく管理する必要に迫られる可能性がある。特に、予算の重点が業務を自律的に遂行する「エージェント型AI」に移るなかで、その傾向は強まりそうだ。
グーグルとマイクロソフトの研究者が参加した最新の研究によると、エージェント型AIはバックグラウンドで継続的に計算資源を消費するため、より基本的なAIタスクと比べて最大1000倍のトークンを消費するという。
こうした状況を受け、AI導入については「少な過ぎず、多過ぎず」の適度な水準を目指す企業が増える可能性がある。
しかし、BCGのクロップ氏は、従業員がようやくAIを使いこなし始めた段階で利用を抑制することは「逆効果になりかねない」と指摘。そうした対応は、企業が最終的にAIから得られる効果を損なう恐れもあるとしている。
原題:Corporate AI Cheerleaders Run Into Reality of Soaring Costs(抜粋)
--取材協力:Natalie Lung.もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp
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