パソコンゲーム大手バルブの共同創業者で社長のゲイブ・ニューウェル氏は、米テック業界の富豪の中で最も愛されている、あるいは最も嫌われていない人物と言っていい。

少なくとも、その名を知る人々の間ではそうだ。批判者への攻撃で悪名高い業界にあって、ニューウェル氏はゲーマー寄りの姿勢と「オタクキング」的な振る舞いで今なお敬愛されている。

「ハーフライフ」などの名作ゲームやバルブのオンラインストア「スチーム」を通じていつの間にか巨万の富を築いたにもかかわらず、ジェフ・ベゾス氏やビル・ゲイツ氏、マーク・ザッカーバーグ氏らに付きまとうスキャンダルや企業への反感、賛否を呼ぶ過剰露出とは距離を置いてきた。

だからこそ、バルブがいま米国で集団訴訟の中心にいることは驚きだ。独立系の開発者らは、同社が独占的な慣行によって、スチームで販売するゲームに最大30%という競争水準を上回る手数料を課していると主張している。

アップルやグーグルがそれぞれの反トラスト(独占禁止)訴訟で直面したのと似た申し立てだ。バルブはコメント要請に応じず、不正行為を否定して法廷で争っているが、ブルームバーグ・ビジネスウィーク誌の特集記事で、筆者は同僚のセシリア・ダナスタシオ記者と共に、ニューウェル氏の実像が同氏の反企業的な評判とずれていることにこの訴訟が光を当てている様子を探った。

ゲーマーでない人に、ニューウェル氏がなぜこれほど熱狂的な支持を集めるのかを説明するのは難しい。彼は1980年代にマイクロソフトでキャリアを始め、「ウィンドウズ1.0」初期版のバグを見つけ、プログラムを修正する作業に昼夜を問わず取り組んだことで知られていた。

開発チームの中核メンバーだったタンティ・トロワー氏は、ニューウェル氏が上司のスティーブ・バルマー氏と同じくらい不屈だったと説明し、「朝出社すると、彼が寝袋に入って自分のオフィスにいるのを見つけるのは珍しくなかった」と語った。

ニューウェル氏は1996年に退社し、バルブを立ち上げると、マイクロソフト時代の終盤に目にした官僚主義を嫌う自由闊達(かったつ)な企業文化を意図的につくり上げた。

管理職のヒエラルキーを避け、強い意見を持つソフトウエアエンジニアらに、自分たちが最も価値があると考えるプロジェクトを追求する権限を与えた。ニューウェル氏は自分を単なる従業員の一人と見なしていた。ただし、勤務時間中に遊びでゲームをしても許されてはいた。

同氏の変わった振る舞いを称賛する逸話は数多い。例えば、ニューウェル氏は大量のナイフのコレクションを築き、社内でそうしたナイフを振り回していた。

元従業員らは、バルブの象徴的な作品「カウンターストライク」の初期パッケージ版にコンバットナイフを同梱(どうこん)することをニューウェル氏が提案したことさえある、という未確認の伝説を語った。

ある時、鋭い剣をつり下げた不穏な天井装飾が、社内のメイン階段の上にニューウェル氏のために設置された。従業員らはそのアート作品をシャンデリア型の「ダモクレスの剣」と見なし、運命を試さないよう足早にその下を通り抜けていた。

バルブは働くには厳しい職場だったが、ニューウェル氏は従業員に手厚いボーナスで報いた。全社総出の豪華なハワイ旅行もその一つだ。

バルブの成功でニューウェル氏が途方もない富を得ても、典型的な富豪趣味はなぜか、ビリオネアに付きものの批判を免れてきた。

ベゾス氏の巨大ヨットは豪奢な浪費の象徴として批判を浴びた一方、ニューウェル氏が多額の資金を投じた水上リゾートは問題視されなかった。両氏のヨットを建造したオーシャンコをニューウェル氏が買収した後でさえそうだった。

その一因は、ニューウェル氏がほとんど表舞台に出ず、公のインタビューやステージイベントに参加することがまれだった点にある。何しろバルブは30年近く非公開企業のままだ。

だがもう一つの理由は、ニューウェル氏のファンが長年、彼を悪役じみた収益化手法で搾取する人物ではなく、ゲーム体験の改善に向け英雄的に闘う人物と見なしてきたことにもある。ニューウェル氏は時折、ファンからのメールに返信している。

とはいえ、この訴訟は、ニューウェル氏の情け深いとされるステータスがバルブの業界パートナーにとっても全く正確なのかという疑問を投げかけている。

裁判資料には、スチームの方針を巡りバルブ従業員が開発者と強硬にやり取りしているように見える電子メールが含まれている。極めて利益の大きい30%の販売手数料を守るためだとされ、その様子はバルブがアマゾン・ドット・コムのような企業とそれほど違わない行動を取っていることを示唆している。

幾つかの電子メールでは、独立系デベロッパーと大手パブリッシャー双方の幹部が、バルブを怒らせ、同社のオンラインストアから締め出されることへの懸念を示している。そうなれば、ゲーム販売に壊滅的な打撃となりかねない。

例えば2020年の電子メールのやり取りでは、マイクロソフトと同社Xbox部門の幹部らが、「フォルツァ ホライゾン4」の新バージョン発売を目前に控え、バルブが暗黙の方針をどの程度一貫して適用しているかを議論している。その方針とは、スチームと競合するストアでゲームをより安く販売するゲームメーカーを事実上罰することを目的としているように見える。マイクロソフトはコメントを控えた。

これまで報じられていなかった記録によると、この訴訟でのニューウェル氏の証言録取で、彼はそうした「価格同等性」方針が公式にも非公式にも存在することを繰り返し否定した。

顧客や開発者からのスチームに関する不満について問われると、ニューウェル氏は「われわれは常に、彼らに満足してもらい続けるために一段と努力している」と答えた。

(この記事は、テクノロジー業界のビジネスを世界中のブルームバーグ記者が掘り下げて伝えるニュースレター「Tech In Depth」からの抜粋です)

原題:Valve’s Gamer Friendly Reputation at Risk in Suit: Tech In Depth(抜粋)

--取材協力:Cecilia D'Anastasio.

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