データに見る「メリハリ消費」の実態
では実際の家計データは何を示しているのでしょうか。

物価上昇が続く中、食料や日用品などの支出は実質的に抑制傾向にある一方、「教養娯楽」(旅行・趣味・体験など)への支出は、節約志向の中でも比較的底堅く推移しています。
つまり、「節約しながらも、こだわりたいところにはお金をかける」というメリハリ消費が、データにも現れているのです。
ここで重視されているのは、単純な金額の大小よりも、「自分にとって価値があるかどうか」という感覚です。そうした基準で支出先を選ぶ傾向が、確実に強まっています。
メンパという言葉が生まれる前から、データにはその兆しが現れていました。言葉は、後からその変化を言い表したものにすぎません。消費の現場では、すでに静かな変化が始まっていたのです。
効率を否定するのではなく、「使い分ける」
もっとも、コスパやタイパが不要になったわけではありません。むしろ実際には、一人の消費者の中に、効率重視と心重視の両方が共存しています。
たとえば、平日はネットスーパーや時短家電を使って家事を効率化する。その一方で、休日にはあえて時間をかけて料理をする。日常の移動は最短ルートで済ませながら、旅先ではあえて遠回りを楽しむ――。こうした「使い分け」こそが、メンパ消費の実態です。
日本インフォメーション社が2026年3月に実施した調査によれば、
・コスパ意識が高い場面:「買い物・食事・料理」
・タイパ意識が高い場面:「家事・身の回りの用事」
・メンパ意識が高い場面:「人付き合い・人間関係」「休憩・くつろぎ・いやし」
というように、一人の生活者の中に三つの軸が共存し、場面に応じて使い分けられていることがわかります。
なお、同調査では「メンパ」の認知率はまだ26.0%にとどまっています(コスパ85.8%、タイパ78.9%)。言葉はまだ浸透途上ですが、その感覚はすでに多くの人の暮らしに根づき始めているのではないでしょうか。
コスパ・タイパの時代、私たちは効率化によって生まれた時間を生み出してきました。そして今、その時間を何に使うのかが改めて問われています。「心が整う時間に使いたい」。そう考える人が増えているのだとすれば、効率は「目的」ではなく、「手段」へと変わりつつあるのかもしれません。
物価高や不確実性の高まりの中で、私たちは「何を持つか」だけでなく、「どう過ごすか」を重視するようになってきました。
メンパ消費は、コスパ・タイパを否定するものではなく、それらを前提とした次の段階の消費行動だと言えるでしょう。
効率化を経た先で、人々は今、「少し自由になる時間」を求め始めています。社会全体が、少し成熟してきたということなのかもしれません。
(※情報提供、記事執筆:ニッセイ基礎研究所 生活研究部 上席研究員 久我 尚子)