マクロへの影響
イラン攻撃が終結したときに、プラス効果として期待できそうなのは、供給不安が徐々に解消して、復興需要のような作用が生じることだろう。例えば、ナフサに代表される石油由来の原料は供給不安があるために、生産が絞られている面がある。ホルムズ海峡開放になれば、先々の供給不安がなくなる分、石油関連製品の川上から川下への生産抑制がなくなり、それが復興需要になると考えられる。
ここには、コスト高がしばらく続くことによって、需要リバウンドが小さくなる懸念が付きまとう。それでも3ヶ月程度は復興需要に潤う局面はあると予想されるので、これは一時的に後遺症を見えにくくしてくれるだろう。
問題なのは、コスト上昇分を転嫁していくというプロセスで、需要減退の作用が生じることである。特に、業績下押しが起きている業種では、企業収益が影響を受けている分、設備投資や賃上げといった需要の循環プロセスが弱まることが懸念される。成長率が一時的にリバウンドした後、非常に弱い状態になるというイメージである。潜在成長率がそもそも低い日本経済には、ゼロ成長リスクという表現もできそうだ。
目下のところ、企業の設備投資は好調であり、ソフトウェアなどへの積極投資が供給面での生産性上昇を支えている。AI需要は世界的な流れなので、それが滞ることは考えにくいが、日本国内のソフトウェア投資が鈍れば、それが正の循環メカニズムを弱めることを警戒しておく方がよい。
また、業績格差は、中小企業の賃上げにも重石になるだろう。2026年春から夏場にかけての賃上げは、これまでの収益拡大が支えになっている。それでも、価格転嫁の不全が2026年度前半の企業収益を悪化させれば、冬季ボーナスにマイナスの影響が及び、年末消費を停滞させる影響が出そうである。その先の2027年3月以降の賃上げの機運に、どのような影響が及ぶかは未知数である。仮に、賃上げ率が鈍化すれば、物価上昇による家計の負担増を消化しにくくなる。これは、価格転嫁を進みにくくさせる点で、企業業績の二極化をさらに拡大方向に導くため好ましくないと言える。
マクロ的影響をまとめると、①復興需要後の成長軌道が下方屈折する影響、②設備投資・賃上げが停滞し、原油高で生じた業績二極化が残存・拡大する影響、と表現できる。
経済政策への影響
さて、高市政権は、イラン攻撃の後遺症に対してどう対処するのであろうか。原油高によってインフレ・リスクが高まっているときに、追加的需要刺激をするようなことはしないだろう。国会答弁でも、それはしないと述べている。また、長期金利は一時2.6%台に達し、利払いコスト増が税収の一部を食うことになりそうだ。財政面での自由度は狭まっている。
高市政権は、6月頃に次の2027年度予算編成に向けて、「骨太の方針2026」を発表する予定である。複数年度での予算編成を唱えているから、2026年度の戦略17分野への重点投資は引き継がれるだろう。高市首相が考える経済安全保障、エネルギー安全保障に沿ったかたちの投資、研究開発支援が行われそうだ。
少し気になるのは、中小企業向けの成長支援が手薄であることだ。ナフサ不足などの問題が生じている中、高市政権は、「全体ではナフサは足りている」というアナウンスを連呼し、行政サイドも「目詰まり」という言葉で問題を括っている。流通経路で起こっている機能不全に、政府の目が届きにくいことは明白である。ナフサ不足は、かつて金融の世界で起こった取り付け騒ぎ(パニック)に酷似している。いわゆる目詰まりの原因は、流通段階で将来の品不足を心配して、在庫を多く抱えたいという企業心理によっても起きている。大本営は「足りているはず」と思っても、現場は「予備的動機=仮需(在庫需要)」が発生して、需給は逼迫する。典型的な合成の誤謬だ。
そのほか、食料品消費税の2年間減税が予定されている。国民会議が結論をまとめて、夏場に方針を明らかにするようだ。早ければ2026年度内に実施とされている。その実施時期が決まれば、それを念頭に補正予算の編成もあり得るのではないか。すぐには財政出動をしないとしても、いずれは需要刺激に動く可能性はあると思う。つまり、食料品だけではなく、エネルギー補助などを予備費の範囲を越えて拡充することもあるだろう。ここには、財源探しのハードルがあると思うが、筆者は赤字国債の発行もいとわずに実施するリスクがあるとみている。さらなる財政拡張は、インフレ傾向を助長し、長期金利上昇と円安を促すことになる。片山財務大臣の制御力がどこまで働くかに期待したい。
(※情報提供、記事執筆:第一ライフ資産運用経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト 熊野 英生)