(ブルームバーグ):ベッセント米財務長官が金融資産の指標として重視する米10年債相場は、月間ベースでトランプ氏のホワイトハウス返り咲き以降で最大の下落となる見通しだ。政権がエネルギー危機への対処に追われる状況にあって、米経済見通しに影を落としている。
ベッセント氏はイランでの戦争に伴う世界的な原油不足について、対応は進んでおり、原油相場は数カ月以内に下落するとして、安心を呼び掛けている。だが、投資家の間には根強い懸念がある。
米国債相場は3月31日の取引で上昇したものの、10年債利回りは月間で35ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)上昇。エネルギーコスト上昇によるインフレ高進リスクや、米連邦準備制度が来年にかけて利下げする可能性の後退を反映している。
ウェリントン・マネジメントのポートフォリオマネジャー、ブリジ・クラナ氏は「成長見通しに対するリスクは深刻化している」と指摘。「3カ月前には人工知能(AI)が経済に大規模なディスインフレ効果をもたらす成長要因となると議論していたが、現在は米金融当局がほとんど対処できない供給サイドのショックについて議論している」と話した。

パウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長は30日、「金融政策は様子見が可能な良い位置にあると考えている」との見解をあらためて示した。
トランプ大統領は利下げ注文を繰り返しているが、金利先物市場の動向は、来年7月までのいずれの連邦公開市場委員会(FOMC)会合についても利下げが完全には織り込まれていないことを示している。これに対し、2月末時点では0.75ポイント程度の利下げが見込まれていた。
大幅利下げを主張してきたマイランFRB理事も、こうした姿勢を和らげている。ただ理由としてはイランでの戦争ではなく、予想を上回るインフレ指標を挙げている。米関税措置の影響もありインフレ率は金融当局の2%目標を大きく上回る水準で推移しており、政権にとっても懸念材料だ。
さらに、世界の原油輸送の約20%が通過するホルムズ海峡の事実上の封鎖も、エコノミストや投資家が新たに織り込むべき要因となっている。イランがこの要衝の支配を維持していることへのトランプ政権のいら立ちは、31日の言動でも明白だった。
トランプ氏のいら立ち
ヘグセス米国防長官は記者団に対し、ホルムズ海峡は「米国だけの問題ではない」と発言。これに先立ちトランプ氏はジェット燃料を巡り、「海峡に行って確保すべきだ」と、SNS投稿で他国に促していた。
KPMGのチーフエコノミスト、ダイアン・スウォンク氏は、ホルムズ海峡が数週間以内に再開されたとしても、戦争の余波は当面続く可能性が大きいと分析。ペルシャ湾岸地域のインフラが被った損害に言及した上で、「大統領は明らかに早期終結を望んでいる。われわれもそう望んでいる。しかしながら、無視できない尾を引く影響が残る」と述べた。
スウォンク氏はさらに、アルミニウムなど投入コストの上昇が小売価格に波及するなど、エネルギーコストにとどまらない「混乱が生じる」との見方を示した。
パウエル議長は、連邦準備制度がインフレ指標として重視する個人消費支出(PCE)価格指数のコア指数が戦争前の時点で既に、前年比3%のペースで上昇していたと先に指摘。また30日のイベントでは「インフレ期待は短期を超えてしっかり安定しているように見受けられる」とも話した。
それでも、一部の指標は借り入れコストを巡る長期的な懸念を示唆している。
米10年物インフレ連動債(TIPS)利回りの1年先フォワード指標は先週、2000年代の最初の10年以来の水準に達した。この指標は今後1年間の変動要因を除いた水準を示すもので、過去20年間の平均は約1.74%だったが、31日時点では3.38%となっている。ここ数カ月から数年にかけての持続的な上昇は、米国の債務負担の拡大も反映しており、国防支出の増加によって一段の悪化が見込まれる。

ベッセント氏が、足元の対イラン戦争による混乱にとらわれないよう呼びかけている姿勢は、昨年4月にトランプ氏の関税引き上げの影響について語った内容を想起させる。当時、関税によるインフレ押し上げは「一過性」にとどまると主張していた。財務省は31日、利回り上昇に関するコメント要請に応じなかった。
ナティクシスの米国担当チーフエコノミスト、クリストファー・ホッジ氏は「これらは全て一時的な要因として割り引くことができるかもしれないが、より広い文脈が重要だ」と話す。インフレ率は5年間にわたり2%目標を上回っているとし、「一連の出来事により、F当局がインフレを目標まで引き下げる能力や意思に対する疑念が生じている」と論じた。
米10年債利回りは31日時点で約4.30%と、トランプ氏が当選した24年大統領選投開票日の水準と比べて大きな変化はない。ベッセント氏は財務長官就任後まもなく、金融当局の短期政策金利ではなく10年債利回りの低下に注力する考えを強調していた。昨年5月には、米国債相場の顕著な変動を通知するスマートフォンアプリを利用していることも明らかにしている。
米10年債利回りの上昇は、住宅ローン金利の低下傾向に歯止めをかけ、重要な春の販売シーズン入りに当たり住宅市場に冷水を浴びせている。直近の利回り上昇以前から、多くの購入希望者にとって住宅取得の負担は重く、1月の新築住宅販売は22年以来の低水準となっていた。
追い風消失
KPMGのスウォンク氏は、最近の一連の展開により、税還付による財政刺激など米経済に今年見込まれていた「大きな追い風」が事実上消失したとみる。
アトランタ連銀のGDPナウによる1-3月(第1四半期)の成長率予測は、1月時点で平均4.6%だったが、最新の3月23日時点では2%を下回る水準まで低下している。
ホルムズ海峡の事実上の封鎖が長期化して、原油相場が高止まりするか一段と上昇した場合、経済への影響はインフレ圧力の高進から景気下降へと転じる転換点を迎える可能性もある。
米シンクタンク、アトランティック・カウンシルで国際経済を担当するジョッシュ・リプスキー氏は「事態がエスカレートすれば、連邦準備制度や他の各国・地域の中央銀行が逆の対応を迫られる状況もある」と指摘。「それは誰も望まないシナリオだ。世界的な景気減速を意味し、そうした形で金利が低下するのは望ましくない」と述べた。
原題:Iran War Threatens to Wreck Trump Dream of Lower Interest Rates(抜粋)
--取材協力:Ye Xie.もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp
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