トランプ米大統領が2025年4月2日、いわゆる「解放の日」に大規模な関税措置を発表し世界の金融市場を混乱させてから1年。その動きを受けて構築された投資戦略は、完全に棚上げされた。

背景にあるのは、2カ月目に入ったイラン戦争が前例のない「オイルショック」を引き起こし、昨年4月以降の市場を特徴付けてきた人気取引の急速な巻き戻しを余儀なくしているためだ。

人工知能(AI)ブームと金利低下を背景に上昇してきた世界株は戦争開始以降、リスク選好の低下に伴い約14兆ドル(約2220兆円)の時価総額を失った。

債券市場も大きく変動。インフレリスクの高まりを受けて、金利見通しの再評価が進んだ。魅力的なバリュエーションと堅調な成長見通しで資金を呼び込んでいた新興国市場は、原油輸入への依存度の高さから資金流出が加速している。

原油は、中東情勢の悪化を受けて急騰。世界の原油輸送の約2割が通過するホルムズ海峡は現在、ごく一部の船舶を除き封鎖されている。エネルギー市場コンサルティング会社FGEネクサントECAは、この状態が今後6-8週間続けば、価格は1バレル=150ドルから200ドルに達する可能性があるとみている。

米国とイランは3月31日、解決に向けた姿勢を示し、投資家は戦争の行方を改めて分析している。トランプ氏は2、3週間以内に米国がイランから撤退する計画だと述べた。ただし、その期間内に紛争が終結したとしても、ホルムズ海峡の通常航行が回復するには時間がかかる見通しだ。

トランプ氏は実質的な海峡封鎖によりエネルギー供給を確保できない国々に対し、「自ら取りに行け!」とのSNS投稿も行った。

地政学ショック

フランクリン・テンプルトン・インスティテュートの投資ストラテジスト、クリスティ・タン氏(シンガポール在勤)は、「解放の日は米国発の政策ショックであるのに対し、イラン戦争は外生的な地政学ショックだ」と指摘し、「戦争が続く限りエネルギーを通じて価格上昇圧力が強まり、最終的にはより大きな成長への下押し要因となり得る」と述べた。

投資家が石油危機の影響を見極める中、エネルギー動向を最も明確に映しているのはドルとみられる。ブルームバーグ・ドル・スポット指数は先月2.4%上昇し、昨年7月以来の大幅高となった。世界最大の産油国である米国の地位と、世界的なストレス局面での安全資産としてのドル需要が背景にある。

ドルは3月、主要通貨全てに対して上昇し、各国の中央銀行が自国通貨防衛のため市場介入に動く場面も見られ、戦争による混乱の広がりが浮き彫りとなった。

一方で米国株は他地域よりも比較的底堅い動きを示した。S&P500種株価指数は3月に5.1%下落したが、エネルギー関連株の上昇が下支えし、アジアや欧州の指数よりも下げ幅は小さかった。MSCIの世界株指数は7%余り下落した。

BNPパリバ・アセットマネジメントのダイナミックマルチアセット責任者マーク・リチャーズ氏は、「紛争への地理的近接性や金利・エネルギー(石油・ガス)価格への感応度の高さが、欧州連合(EU)・アジア市場にとってより大きな問題となっている」と論じた。

1年前と対照的

米資産の動きは、1年前と対照的だ。当時はトランプ氏の大規模な世界関税がドル指数の長期下落を招き、同指数は2025年4月に4%下げた。投資家は日本や欧州、新興国への分散を進めた。ドル指数は25年通年で8.1%下落し、17年以来の大幅安となった。

S&P500種は解放の日直後の2営業日で10%余り下落したが、1週間後の4月9日には9.5%上昇。トランプ氏が数十カ国に対する関税の90日間停止を表明したことで、08年以来最大の値上がりを記録した。

S&P500種は25年の年間で約16%上げ、3年連続の上昇となったものの、世界株指数の約21%の上昇には及ばなかった。

トランプ米大統領、ホワイトハウスのローズガーデンで関税措置を発表(2025年4月2日)

多くのファンドマネジャーは、エネルギー逼迫(ひっぱく)が緩和すれば米資産の相対的な弱さが再び顕在化するとみている。

欧州最大の資産運用会社アムンディのヴァンサン・モルティエ最高投資責任者(CIO、パリ在勤)は、米国はエネルギー輸出国であることから相対的な勝ち組、あるいは少なくとも大きな負け組ではないとみられていると述べた上で、エネルギー危機は数週間から数カ月で解決に向かう可能性があり、米資産からの分散投資の流れは続くと分析。

ドルはファンダメンタルズの観点から長期的に下落基調にあり、米国株は依然として割高だとの見方も示した。

ニューバーガー・バーマンのマルチアセット共同CIOジェフリー・ブラゼック氏(ニューヨーク在勤)は、和平合意が成立すれば、ドルは主要通貨に対して下落し、米国以外の株式市場が米国株をアウトパフォームする公算が大きいと語った。

新興国に打撃

原油価格の急騰は新興国にとって特に痛手となっている。ここ数カ月、米国からの資金流出の受け皿として恩恵を受けてきた資産クラスだったが、流れは逆転した。リスク資産の指標とされる新興国は、エネルギー輸入への依存度の高さから打撃を受けている。

新興国株指数は先月13%下落し、6年ぶりの大幅安を記録。新興国通貨指数も3%近く下げた。

エイゴン・アセット・マネジメントの米クロスアセットおよび新興国債券責任者ジェフ・グリルズ氏は、昨年の「米国売り」の流れが反転したことで、新興国への投資家は高止まりする原油価格と地政学リスクという複雑な環境に直面していると説明し、原油価格が150ドルに向かえば、世界的な成長減速を引き起こし得ると警鐘を鳴らした。

トランプ氏による最近の発言で、市場への影響が大きくなれば政策を転換するとの見方が再び強まっている。これは昨年の関税政策でも見られたパターンだ。

フィデリティ・インターナショナルのポートフォリオマネジャー、イアン・サムソン氏は、「石油製品が深刻な供給不足に至る前にホルムズ海峡の封鎖が解かれ始めれば、市場は懸念を抱えつつも相場が上昇する」と予想する一方で、「現在の状況が数週間から数カ月続けば、安全な逃避先はドルのキャッシュ以外にほとんどない」との見方を示した。

原題:Iran War Unwinds a Year of Investor Bets on Trump’s Tariffs(抜粋)

--取材協力:Matthew Griffin、Carolina Wilson、Julien Ponthus、Finbarr Flynn、Paul Dobson、Nicholas Reynolds.

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