イランでの戦争は終結が見通せず、世界各国の支出増大と財政赤字の拡大を招くとの懸念が強まっている。投資家の間では長期国債の売りが広がっている。

米30年債利回りはこの流れで約4.90%とほぼ1カ月ぶりの高水準に上昇した。原油高に伴うインフレ高進への懸念が既に高まっている市場では、防衛費の増加やエネルギー価格上昇から家計を守るための支出拡大によって、各国政府が一段の借り入れを迫られるとの見方が広がっている。

世界の債券は年初来の上昇分を失った。英国やドイツ、オーストラリア、日本など利回りは急上昇している。

戦費の増大と財政赤字拡大のリスクを背景に、投資家は期間が長めの債券に一段と高いリスクプレミアムを要求する公算が大きい。エネルギー価格急騰を背景とするインフレ圧力と相まって、債券投資家にとって不安定な組み合わせとなっている。

ウィンショア・キャピタル・パートナーズのマネジングパートナー、ガング・フー氏は「長期ゾーンの金利は財政の問題であり、政府の信認の問題だ」と指摘。「戦費の調達や原油高に直面する消費者への補助のためにトランプ大統領が支出を増やさざるを得ないとの見通しを反映している」と話した。

米国、イスラエルとイランとの軍事衝突は世界市場に大きな動揺をもたらし、投資家は紛争長期化の可能性を次第に織り込みつつある。トランプ氏は11日、戦闘は近く終結する可能性があるとの見方をあらためて示した。だが、具体的な時期には言及せず、「われわれはまだ終わっていない」とも語った。

米政府は作戦に要する費用の見積もりを示していないが、議会では最大500億ドル(約7兆9630億円)の追加支出について既に協議が進んでいる。

12日に実施された220億ドル規模の米30年債入札は、戦闘開始以降に利回りが20ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)超上昇したことを受け、堅調な需要があった。

長期債利回りの急上昇は、原油相場上昇によるインフレ圧力と財政悪化の懸念によるもので、後者はインフレ調整後利回りの急上昇に反映されている。短期ゾーンの実質利回りは今週、景気減速観測を反映して低下した一方、インフレ連動債30年物の利回りは7bp上昇した。

TCWグループの債券運用部門でゼネラリスト・ポートフォリオマネジャーを務めるルーベン・ホヴハニスヤン氏は「戦費の調達や全般的な成長鈍化が投資家心理の重しになっている面がある」と述べた。

米財政赤字は過去数カ月に縮小しているものの、2月までの5カ月間の累計ではなお1兆ドル近くに達した。このほか、米政府に多額の歳入をもたらしてきたトランプ氏の包括的な関税措置を違法とした連邦最高裁の判断を受け、その影響を投資家は既に織り込みつつある。

債務残高増大

世界各国の政府は、ロシアによるウクライナ侵攻を契機とした2022年のエネルギー危機の際、大規模な歳出を余儀なくされた。

ハイマンズ・ロバートソンの資本市場部門責任者、クリス・アルカリ氏は「財政余力が限られ、債務残高と利払い費が増大する中で、今回は債券市場が同様の大盤振る舞いを資金面で支えることに消極的になる可能性がある。少なくとも、その資金供給には一層高い実質利回りを要求するだろう」との見方を示した。

欧州の当局者も防衛費の増加や、原油価格が高止まりした場合のエネルギー補助金導入の可能性に直面している。欧州委員会のフォンデアライエン委員長は11日、ガス価格の上限設定を含む複数の措置に言及した。

ノムラ・インターナショナルの欧州担当シニアエコノミスト、アンジェイ・シュチェパニアク氏によると、欧州各国政府は22年の対応策を踏襲し、エネルギーショックに迅速に介入する可能性が高い。当時は欧州連合(EU)による共同債発行で危機対応支出が賄われた。

シュチェパニアク氏はブルームバーグテレビジョンとのインタビューで、「EUの共同債発行、域内全体への構造的支援というシナリオは十分に想定できる」と語った。

アジア太平洋地域も同様の状況だ。

オーストラリアやシンガポールなど各国が防衛費を増額しており、日本の26年度予算案の防衛費も過去最大に上る。イラン情勢は長期的に政府支出を一段と引き上げる圧力を強め、財政健全化の取り組みを一層複雑にするリスクがあると、オーストラリア・コモンウェルス銀行のストラテジスト、キャロル・コン氏は指摘する。

コン氏は「インフレ期待の上昇も債券利回りを押し上げる圧力となり、アジアでは日本もその例外ではない」と述べた。

比較的安全な資産の逃避先と見なされてきた中国でも、インフレ懸念を背景に期間が長めの債券が圧力にさらされており、30年債利回りは24年以降で最高水準にある。

世界的な政府借り入れの拡大で、投資家が高い利回りを求めるようになれば、31兆ドル規模の米国債市場に一段の圧力をかける可能性がある。ブルームバーグの米国債リターン指数は、年初来の上昇分をほぼ失った。

中東紛争が長期化し、各国政府が歳出拡大で対応すれば、投資家は期間が長めの証券に対し一段と高いリスクプレミアムを要求し続けると話している。

ルーミス・セイレスのポートフォリオマネジャー、マシュー・イーガン氏は「米国債の供給は米国が買い手を必要としている局面で増加していく」とし、「30年債利回りが5%を上回るまでは、積極的に投資する動きは見込めない」と語った。

原題:War Cost Sinks Long-Term Government Bonds on Deficit Worries (3)(抜粋)

--取材協力:Will Standring.

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