米連邦最高裁は一筆で、トランプ大統領が対外影響力の切り札としてきた手法に大きな打撃を与えた。

20日示された画期的な判決で米政権の世界的な関税が違法とされたことは、単独行動による権限行使を好む大統領にとって大きな痛手だ。就任1年目にはほぼ制約なくそうした手法を用いてきた。トランプ氏は直ちに関税再導入の方針を表明したが、利用可能な代替手段は機動性に劣る。

ワシントンのシンクタンク、アトランティック・カウンシルで国際経済を担当するジョッシュ・リプスキー氏は「これまでの大統領職の中で極めて重要な局面の一つだ」と述べた。

国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づく関税は「世界貿易体制を再構築するためにトランプ大統領が活用してきた主要な経済的武器だった」とリプスキー氏は指摘。今問われているのは「それを全体として再構築できるのか」ということだという。

ホワイトハウスが対応を協議する中、最高裁の判決はトランプ氏が予定する中国の習近平国家主席との会談にも直ちに影響を及ぼす。両首脳は昨年の関税休戦を延長する見通しだったが、北京側が交渉で優位に立ち、米国製品やボーイング機、エネルギーの大規模購入を求めるトランプ氏の要求は通りにくくなる可能性がある。

第1次政権で商務長官を務めたウィルバー・ロス氏は、トランプ氏の代替手段はいずれも「欠点」があり、権限の範囲が「限定」されると述べた。

インタビューで同氏は、「いずれの手段も、各国との協議におけるトランプ氏の交渉力を弱めることになり、対中国では特にそれが顕著だ」と語った。

24日夜の一般教書演説の重要性も高まっている。トランプ氏は経済政策を強調する意向を示していたが、看板政策が混乱に陥ったことでメッセージの修正を迫られる可能性がある。

権限縮小を懸念したトランプ氏は、数カ月にわたり関税維持を最高裁に訴えてきた。「大統領は関税に関して駆け引きができなければならない」とトランプ氏は主張。関税やその脅しが、貿易不均衡の是正や武力紛争の停止に向けて外国首脳を交渉の場に引き出したと自賛してきた。

だが、トランプ氏が指名した3人を含め保守派が多数を占める最高裁は、その訴えに応じなかった。

多数意見は明確だった。「憲法起草者らは、平時に関税を課す権限を『議会のみ』に与えた」とし、「関税が外交に影響を及ぼすからといって、議会があいまいな文言に基づいたり、慎重な制限を設けずにその権限を放棄する可能性が高まるわけではない」と記された。

判決後、トランプ氏はホワイトハウスでの記者会見で怒りをあらわにし、「長年にわたりわれわれを食い物にしてきた外国は有頂天になっている」と発言した。

欧州のある高官は、この判決への反応を「他人の不幸を喜ぶ感情」と表現し、米国の抑制と均衡の仕組みが機能していることを示したと述べた。

判決後にトランプ氏は、他の法的権限に基づく関税導入までの時間を稼ぐため、最長5カ月間の世界一律10%関税を課す計画を明らかにした。 21日の午前には、その税率を15%に引き上げると表明するとともに、最高裁を「反米国的」と非難した。

 

だが通商法122条や301条、232条といった代替手段には制約がある。

自身の権限が弱まるのではないかと問われたトランプ氏は、「最終的にはこれまで以上の収入を得るだろう」と述べた一方、プロセスは「これまでより複雑になる」とも認めた。

今回関税の権限が制限されたことで、交渉相手国は厳しい譲歩を受け入れる動機が弱まる可能性がある。欧州連合(EU)や主要経済国などとの交渉の様相も変わり得る。

この判決は、生活費が争点となると見込まれる中間選挙を数カ月後に控え、大統領の看板経済政策への否定とも受け止められる。共和党内では下院における僅差の多数派を失う可能性が意識され、不満が高まっている。既に一部の共和党議員は党の方針に反し、カナダ製品への関税撤廃を目指す法案を支持した。

2月に公表されたピュー・リサーチ・センターの世論調査によると、米国人の約6割がトランプ氏の関税を支持せず、約半数が同氏の政策で経済が悪化したと回答した。

国外の反応

一方で、今回の判決は消費者負担を和らげる方向で関税を見直す機会にもなり得る。トランプ氏は最近、一部重要製品を適用除外とし、価格抑制のための調整が必要との認識を示したと受け止められた。

ブルームバーグ・エコノミクスの試算によると、10%の世界一律関税は平均実効関税率を従来の13.6%から16.5%へ引き上げる可能性がある。一方、現行の除外措置が維持されれば11.4%まで低下する。

各国当局者は今回の判決について、トランプ氏の保護主義への長年にわたる批判の正当性を示したと歓迎した。カナダで対米貿易担当相を務めるドミニク・ルブラン氏は、関税は「不当」だったことが示されたと述べ、自国製品を他の関税から守るための「重要な作業が待っている」と語った。

トランプ氏の脅し

トランプ氏は今後も別の手段で圧力をかける可能性が高い。これまでグリーンランド取得要求やイラン周辺での米軍増強など、他の形で米国の影響力を誇示してきた。

欧州の外交官らは、トランプ氏が別の手段で関税を再導入する見通しから、今回の判決は米国の貿易相手国にとって象徴的勝利に過ぎないと語った。ホワイトハウス高官は、貿易枠組みに合意した国は約束を履行すると政権は見込んでいると述べた。

ANSA通信によると、イタリアのタヤーニ外相は「関税が撤廃されるのは常に良いニュースだが、大きな変化はないだろう」と語った。

政権は多くの政府と貿易合意に達しているが、一部交渉は数カ月に及んでいる。EUや英国はなお細部の詰めを続けている。

トランプ氏は長年、政界と実業界で交渉力を誇示してきた。著書「Trump: The Art of the Deal」(邦題:「トランプ自伝 アメリカを変える男」)では、「最善なのは強みを背景に交渉することだ。交渉力は最大の強みだ。相手が望む、あるいは必要とするものを持つこと。最も良いのは、相手に欠かせないものを持つことだ」と記している。

トランプ氏は関税による数十億ドルの収入や、米国製品購入の約束、日本や韓国などによる数千億ドル規模の対米投資を成果として強調してきた。また、ロシア産原油の購入抑制をインドに迫るなど、関税の脅しを外交圧力にも用いてきた。

ベッセント財務長官は20日、代替措置により2026年の関税収入は「ほぼ変わらない」見通しだと話した。

ベッセント氏は、「米国民にとって本当に残念なのは、大統領が国家安全保障や交渉力のために関税を利用する柔軟性を失うことだ」と述べた。

原題:Trump’s Treasured Negotiating Edge Dulled By Tariff Defeat (1)(抜粋)

--取材協力:Erik Larson、Jennifer A Dlouhy、Donato Paolo Mancini、Samy Adghirni.

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