(ブルームバーグ):8日の総選挙を迎えた東京の街は、珍しくうっすらと雪に覆われた。日本列島の広い範囲が吹雪に見舞われ、各地で緊急警報が出されていた。真冬の総選挙が何十年もなかったのは、恐らくこれが理由だったろう。
悪天候は有権者の足を止めなかった。高市早苗首相に国家運営を任せるかというシンプルな問いが示されていた。
歴代首相は通常、国政選挙を政策課題に結び付けてきた。だが高市氏は、自らが首相でいいのかと国民に問いかけた。自身の人気に賭け、個人としての高市早苗を信任してほしいと有権者に訴えた。
高市氏は衆議院解散・総選挙実施を先月発表した際、「日本は、議院内閣制の国ですから、国民の皆様が直接、内閣総理大臣を選ぶことはできません」と述べた上で、国家運営を自身に託すかどうかを国民に直接判断してもらいたいと呼びかけた。
実際の選挙結果は、ほぼ誰の予想をも超える圧勝だった。自民党は316議席を獲得。自民党の歴代総裁の中でも突出した勝利となった。
憲政史上最長の政権を築いた故・安倍晋三元首相でさえ、この水準の成功には到達していない。衆院での3分の2の多数派により、参議院での少数与党という弱点は事実上無意味になる。参院で否決された法案も、再可決が可能になるからだ。
これにより、高市氏は近年の日本で最も強力で影響力のある指導者の1人となる条件を確保したことになる。
勝因の一部は、対立候補の質にもあった。立憲民主党と公明党が拙速に合流し生まれた中道改革連合は、大きく議席を減らし、事実上の大失敗だった。ただし、高市氏は同じ世代の政治家として最も天賦の才に恵まれているとも評される。そうした人物が相手では、どんな対抗勢力であっても苦戦した可能性はある。
この勝利は、高市氏の本当の姿を明らかにするだろう。衆参両院で不安定な立場にあったこれまでの政権は、どうしても受け身にならざるを得なかった。
今や高市氏は、自らのビジョンを実行する信任を得た。ただ、具体的なビジョンは、なお判然としない。選挙を首相個人への信任投票にしたことで、政策はやや見えにくくなった。
高市氏が何者であるかを問う前に、まず何者ではないかを明確にしておく必要がある。高市氏を「超保守」や「超国家主義者」と位置付ける報道は依然として多いが、こうしたレッテルは理解を助けるどころか、混乱を招く。
高市氏が保守であるのは確かだが、急進的だとする見方は的外れだ。強い経済と健全な防衛スタンスという同氏の政策は、多くの国では明確に中道に位置付けられる。
米中との関係
大きな転機となり得るのは、憲法改正だ。今回の勝利により、高市氏はその方向を追求する可能性を得た。これは自民党にとって長年の悲願であり、安倍氏でさえ踏み切るだけの十分な自信を持てなかった課題だ。
高市氏は既にリスクを取る姿勢を示しており、選挙戦では、連合国軍統治下で成立した平和憲法を改め、自衛隊を明記することに言及していた。衆院での十分な多数派に加え、参院にも改憲を望む政党があることを考えれば、そのタイミングは近づいているのかもしれない。
中国は極めて強く反発するだろう。中国もまた、8日の敗者と言える。台湾有事を巡る高市氏の発言を受け、経済と政治の両面で高市政権に圧力をかけた中国の試みは、見事に裏目に出た。ただし、無視すべきは、高市氏が中国を「挑発している」などとする一部の声だ。
この一件は、むしろ高市氏をワシントンに近づける。来月には訪米を予定している。トランプ米大統領は勝者を好む。とりわけ、自ら支持した相手であればなおさらだ。
トランプ氏は投票日直前、高市氏を支持すると表明。日本側が通常嫌う類いの介入とも思えるこうしたコメントを、高市氏自身が歓迎していたかは分からない。それでも、同氏はこれをてこに、関税条件の改善や、対中姿勢でのより強い支持を引き出すなど、トランプ氏との関係強化を図ることができる。
また、高市氏は、市場での多くの論評が示すような無責任な財政支出の擁護者ではない点も重要だ。経済政策の打ち出し方が十分とは言えないのは事実だが、際限なく支出を拡大しようとしているわけではない。
同氏が目指しているのは、緊縮から脱却するために国全体の意識を変えることだ。歴史的高水準の債務を抱える日本という文脈では、直感的に結び付かないかもしれない。しかし現実には、日本は全体として貯蓄が過剰で、必要な水準よりも支出が少ない。
それが具体的に何を意味するのかは、まだ不透明だ。食料品の消費税率を一時的にゼロにするという同氏の提案は、選挙戦の途中で聞かれなくなったが、衆院選圧勝が明らかになると、直ちにメディアのインタビューで触れられた。これは撤回した方が賢明だっただろう。
成功に酔うべきではないという教訓の一例だ。何よりもまず、発言には一層の注意が求められる。台湾や円安を巡り発した言葉は、誤解に基づく面があったとはいえ、不要な混乱を招いた。
そして最も重要なのは、個人の人気に支えられた勝利である以上、その魅力と有権者とのつながりを維持しなければならない点だ。
そのためには速やかな行動が必要となる。これまで高市氏は、自民党内のアウトサイダーとして見られる利点をうまく生かしてきた。だが今や、良くも悪くも、自民党政権そのものを背負う立場にある。
(リーディー・ガロウド氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、日本と韓国、北朝鮮を担当しています。以前は北アジアのブレーキングニュースチームを率い、東京支局の副支局長でした。このコラムの内容は個人の意見で、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)
原題:Takaichi Needs More Than Her Winning Personality: Gearoid Reidy(抜粋)
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