グリコのゴールインマークや巨大なカニの看板が街を彩る大阪・心斎橋。一大観光スポットだが、近くで二つの焼き肉店を切り盛りする塩川良司さん(33)は昨年末からの中国人客減少を受け、経営方針の転換を迫られている。

一番人気のメニューは、サーロインステーキやリブロースなどを含む1万3000円のA5和牛ペアセットだが、昨年12月から売り上げは約30%減少した。中国からの観光客は「3年ぐらい来ないかな」と事態の長期化を覚悟している。

昨年11月の高市早苗首相による台湾有事に関する国会答弁をきっかけに日中関係は悪化している。全国平均より中国人観光客への依存度が高い大阪は、中国政府が日本への渡航を控えるよう勧告するなどの対抗措置を講じたことで大きな影響を受けた。昨年12月に大阪府を訪れた中国人客は約17万6000人と前年同月比で半減した。

塩川さんは、高市首相を「個人的には好きな方」だと話す。台湾を巡る問題も今に始まったことではないとし、タイミングは悪かったものの「ハッキリさせるのはいいと思う」と語った。昨年までは中国最大の口コミサイト「大衆点評」での評価向上に注力していたが、中東の富裕層獲得へのシフトを考えている。

8日投開票の衆院選で大阪府内は、2024年の前回は維新が全勝した19選挙区のうち18で自民党と日本維新の会の候補による与党対決が繰り広げられている。これに中道改革連合などが絡む構図だ。商業都市として知られる地域だが、日中関係悪化による経済的な打撃に高市首相の責任を追及する声は広がっていない。

法政大学大学院の白鳥浩教授は、今回の衆院選は戦後最短の期間で実施されるため、「個別の政策領域に必ずしも踏み込めないまま投票になってしまっている」と指摘。自民党候補は個別の政策よりも「高市さんを首相として認めるか否か」に焦点を当て支持拡大を図っており、この選挙の特殊性を示していると語った。

共同通信が1月31、2月1両日に行った全国電話世論調査で高市内閣への支持率は63.6%だった。歴代内閣と比較しても高水準を維持している。

高市人気

1月19日に衆院解散を表明した高市首相は、自身が「内閣総理大臣で良いのかどうか」を争点に位置付けた。責任ある積極財政に加え「力強い外交・安全保障」を掲げ、安全保障関連3文書の改訂や、防衛装備品の海外移転の条件である「5類型」の撤廃の是非を問うている。

首相の人気を追い風に、大阪の自民候補は強固な維新の地盤に切り込もうとしている。土曜日の夜、自民党の加納陽之助候補がJR高槻駅前デッキを行き交う人にあいさつする中、スタッフは「最大の争点は高市早苗内閣が皆さまにご信任をいただけるかどうか、この一点です」と訴えた。

加納氏はこれまでの選挙戦と「全然違う」と話す。声をかけてもらうことも多く、高市首相の「熱烈なファンが一定数いることを実感する」と語る。世界秩序が不安定化する中で「抑止力を強化していかなければいけない」とし、「高市政権でそこを固めないといけない」と話した。

維新

大阪で自民と対決する維新は地元での実績をてこに支持固めを狙う。吉村洋文代表(大阪府知事候補)が1日夜、堺市にある中百舌鳥駅のロータリーで行った街頭演説には、多くの人が足を止めた。大阪市長も務めた経験がある吉村氏は、地下鉄民営化、高校や公立大学の授業料無償化、大阪・関西万博の開催などの実績を強調した。

開始15分前に会場に駆け付けた古家美和(67)さんは、維新を創設した橋下徹氏が大阪市長だった時代に自らも勤務していた市の外郭団体の給与が大幅に削減されたが、維新の改革力を目の当たりにし、支持するようになったと語る。

万博には39回行き、街頭演説にも万博公式キャラクター「ミャクミャク」のぬいぐるみを手にして訪れた。「高市さんは好き」だと語り、維新と自民の「2馬力はすごい、期待しています」と話した。

野党

ベッドタウンである高槻市内のスーパーマーケット前では中道改革連合の近藤昭一共同副代表が、高市首相の外交安保政策について「これは危ない。なんとしても私たちは止めなければ」と買い物客らに訴えていた。「高市さんが大勝すると、そうしたことをどんどんやってしまって、取り返しがつかなくなる」と強調する。

衆院選の投票先として、中道とチームみらいの間で迷っているという玉井幸助(34)さんは、関西を拠点に訪日客向けのプライベートツアーを提供する会社の代表だ。台湾有事を巡る発言には「得なことが一つもない」と話し、中国からの観光客を「言う必要のない発言で損なった」と批判した。

野党側が台湾有事発言を問題視する一方で、高市首相の人気が衰えない背景には、オーバーツーリズム(観光公害)への懸念もある。

大阪市南部・日本橋の道具屋筋で100年以上続く調理用具専門店「川西厨房」代表の川西剛友さん(55)は、インバウンドは大阪経済にとって大きな部分を占めていると指摘する。ただ、市で禁止している路上喫煙をする外国人も多く、「もろ手を挙げてどんどん来てくださいってなるかと言われると、難しい」と話した。

自民を支持する川西さんは、台湾有事を巡る高市首相の発言は問題視しておらず、本音を言う方が本当の関係につながると考えている。

高槻市などの大阪10区には維新の池下卓、中道の尾辻かな子、自民の加納、参政党の井上誠也の計4氏が立候補している。衆院選の同日には「大阪都構想」の是非を問う府知事選と大阪市長選も行われるが、自民や中道など主要政党はいずれも候補者擁立を見送った。

外国人観光客増によるオーバーツーリズムへの懸念が日本国内でも広がっている(京都府)

先行き不安

心斎橋で塩川さんが営む焼き肉店は、ムスリムの間で禁忌とされる豚肉などを含まない製品などにお墨付きを与えるハラル認証を取得しており、イスラム圏で利用されているSNSで発信強化に取り組んでいる。

ただ、中東情勢の不安定化はこうした戦略にも影を落とす。サウジアラビアからの顧客は減少傾向にあり、1月はドバイなどからの顧客が来なくなったという。

新メニューの追加や客単価の引き上げに取り組んでいるが、先行きについては「正直ちょっと怖い」と不安をあらわにした。高市首相に期待することを聞くと、「戦争はやめてください」と率直な答えが返ってきた。

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