昨年10月の総裁選で自民党議員の支持確保に苦戦した高市早苗首相が、8日投開票の衆院選で、戦後の日本の指導者として最大の信認を得た。

予想外の大差での勝利により、保守強硬派として知られる高市首相は、より強硬で発信力があり、自立性を高めた日本という国家主義的ビジョンを実現する余地を得た。防衛力の強化や中国・北朝鮮との対峙(たいじ)、対米関係の深化、戦略投資の拡大、企業への賃上げ圧力に加え、日銀に利上げの再考を促すことも視野に入る。

自民党が単独で定数(465議席)の3分の2を上回る議席獲得を確実にしたことで、高市首相は財政規律の重視を表明しているものの、防衛費増額や食料品の消費税率ゼロを進める余地が広がる見込みだ。しかし最大の抵抗は、国会ではなく市場から来る可能性がある。

楽天証券経済研究所の愛宕伸康チーフエコノミストは、市場の信認を得るというハードルは残っていると指摘。円安と金利上昇という形で市場が週明け以降に発する警告に対し、高市政権がどう対応するかが極めて重要だと述べた。

投資家が衆院選の影響を見極める中、高市首相は、数週間前には危ういと見られていた選挙で歴史的勝利を収めた。この異例の大勝は多くの点で、日本と世界の大きな変化を反映している。ロシアのウクライナ侵攻や台湾に対する中国の軍事的圧力強化に加え、同盟国としての信頼性に疑問が残るトランプ米大統領の存在が不安感を高め、日本国民は強い指導力を求めている。

政権基盤の強化により、高市首相は歳出案の実行のほか、憲法改正に動くことも可能になる。

衆院選で戦後最大の信認を得た高市早苗首相

高市首相は8日夜にフジテレビの番組に出演し、経済財政政策の大転換、安全保障政策の強化、情報力の強化など選挙で訴えた政策について「ご信任をいただけたら本当に一生懸命、取り組まなければいけない」と述べた。

2024年衆院選、25年参院選で連敗し、総裁交代が続いた自民党にとって、今回の勝利は驚くべき立て直しとなる。政界全体で、移民規制の厳格化や減税を打ち出し、数十年ぶりの物価上昇に対処すると訴える勢力が支持を広げている。

高市氏の勝利は、05年の小泉純一郎元首相、12年の安倍晋三元首相の圧勝に重なる。両氏と同様、高市首相は親しみやすさと決断力のイメージを持ち、大胆な新経済構想による明るい将来像を掲げ、有権者の支持を得た。

米通商代表部(USTR)元次席補佐で、現在は助言会社アジア・グループでプリンシパルを務めるデービッド・ボーリング氏は高市首相について、「彼女は日本国民に希望を与えている」と述べ、「思想的には保守だが、楽観主義と魅力、そしてコミュニケーション力で勝っている」と指摘した。

高市首相は、衆院選を自身の指導力を問う国民投票と位置付けることで大統領選のような戦いに変えた。対抗勢力が完全に崩れたことも追い風となった。首相の国家主義的姿勢を懸念する声があったにもかかわらず、立憲民主党と公明党の衆議院議員によって結党された中道改革連合は大幅に議席を減らした。

次の課題は官僚とのあつれきになりそうだ。食料品の消費税ゼロに向けた協議を加速させるとの首相の表明を受け、国債利回りは急上昇し、防衛費などの歳出増の財源を巡る懸念は拡大した。政府の年間支出の4分の1はすでに債務返済に充てられており、債務残高の対国内総生産(GDP)比は約230%と、先進国で最大だ。

自民党本部での高市早苗首相(2月8日)

ジャパン・フォーサイトの創業者、トビアス・ハリス氏は高市首相について、「彼女は財務省と争う構えだと思う」と述べ、選挙戦でそれをほのめかしていたと説明した。

高市首相の優先政策の一つは、サイバーセキュリティーやサプライチェーン、重要鉱物を含む経済安全保障への投資だ。これは、市場の力を解き放つことを重視した小泉氏や安倍氏とは異なり、国家が経済において大きな役割を果たすべきだという高市氏の考えを示している。

首相の経済観は、防衛戦略とも整合する。高市首相はトランプ米大統領と良好な関係を構築し、3月19日にワシントンで首脳会談を予定している。一方、台湾有事を巡る発言は中国の反発を招いた。

トランプ米大統領は自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」で「高市早苗首相と同氏率いる連立政権が、極めて重要な投票で圧勝したことを祝福する」と投稿。高市首相について「高い評価を受け非常に人気のある指導者だ」と評価し、「大胆かつ賢明な選挙実施の判断は、大きな成果をもたらした」とした上で、「保守的で、力による平和を掲げるあなたの政策課題を成立させていく上で、大きな成功を収めることを願っている」と述べた。

日本国内で強力な信認を得たことで、高市首相が行き過ぎた対応に出たり、市場の大きな変動を招いたり、家計を重視した経済課題から軸足を外すリスクはある。それでも短命政権が続いてきた近年の日本政治の流れを変える存在となりそうだ。

ボーリング氏は「自民党は勢いを取り戻した」と述べた上で、高市首相が「勢いを回復させ、今や党の将来を左右する立場にある」と指摘した。

衆院選での与党圧勝を受け、9日の日本市場では株式が急騰。日経平均株価は上げ幅が2700円を超え、初の5万6000円台に上昇している。

原題:Historic Win Pits Takaichi’s Vision of Japan Against the Markets(抜粋)

(トランプ氏の発言を追加して更新します)

--取材協力:野原良明、Rachel Lavin.

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