夫婦交代で育児休業を取得する

最後に、育児休業の望まない長期化を防ぐための方策として、父親と交代で育児休業を取得することについて検討する。

たとえば、第一子を8月に出産し、子どもが1歳になった4月に保育所へ入所させる場合、母親は産前産後休業を含めて、合計21か月程度職場を離れることになる。

しかし、母親と父親が交代で育児休業を取得すれば、母親の就業中断期間を大幅に短縮することが可能となる。

それにもかかわらず、実際に父母が交代で育児休業を取得し、母親の早期職場復帰につなげている事例は多くない。

その背景として、男性の育児休業取得率が依然として低いこと、また取得した場合でも期間が極めて短く、交代取得のメリットを十分に享受しにくいことが挙げられる。

厚生労働省「令和6年度雇用均等基本調査」によれば、男性の育児休業取得率は40.5%であり、女性の86.6%と比べて依然として大きなジェンダーギャップが存在する。

さらに、「令和5年度雇用均等基本調査」によると、育児休業を取得した女性の92.5%が半年以上取得し、45.6%が1年以上取得しているのに対し、男性で半年以上取得している者は6.4%、1年以上取得している者は1.6%にとどまっている。

男性の育児休業取得が進まない要因としては、収入面の問題が大きい。

厚生労働省「令和4年度仕事と育児等の両立支援に関するアンケート調査報告書」によると、正社員で働く男性が育児休業を取得しなかった理由として最も多いのは、「収入を減らしたくなかったから」(39.9%が回答)である。

育児休業開始後6か月間は賃金の67%が給付される。

家計への影響を最小限にするためには、夫婦のうち相対的に賃金の低い方(多くの場合、妻)が休業を取得するほうが合理的と判断されやすい。

一方で、育児休業を半年以上取得すると給付率は50%に低下するため、夫婦の年収差が大きくない場合には、育児休業を交代で取得するほうが、給付率の高い期間を最大限活用でき、世帯年収の観点から有利となる可能性もある。

もっとも、育児休業の取得を「現時点の収入差」のみに基づいて判断すると、男女の賃金格差が大きい日本においては、妻が自身のキャリアよりも夫のキャリアを優先する選択となりやすい。

その結果、夫婦間の賃金格差がさらに拡大し、家庭内でのキャリア優先順位が長期的に固定化するおそれがある。

そのため、育児休業の取得については、短期的な収入のみならず、夫婦双方の長期的なキャリア形成という視点から検討することが重要である。

また、「収入の減少」に次いで、男性の育児休業取得を阻む要因となっているのが、「職場が育児休業を取得しづらい雰囲気だった、または会社や上司、職場の理解がなかったから」(22.5%)という点である。

男性の育児休業取得に関する制度的認知は進んでいるものの、長期取得となると、上司や同僚からの心理的な抵抗が依然として存在すると考えられる。

性別によって制度利用のしやすさが左右される状況を改善するためには、企業による職場研修や制度周知の強化に加え、私たち一人ひとりがジェンダーバイアスを自覚し、留意することが求められる。

さらに、女性の早期職場復帰を促すにあたり、男性の育児休業取得が十分に機能していない背景として、「日本の育児休業は女性が子育ての主たる担い手であることを前提に、男性『も』関わることが当然視されている」という課題が指摘されている。

夫婦の同時取得を前提としたままでは、いくら男性の育児休業取得を促進しても、女性のキャリア形成支援としての効果は限定的である。

一方、北欧や西欧諸国の一部では、母親の職場復帰を促す仕組みとして、男性のみが取得可能な育児休業期間が設けられている。

このような夫の単独育児休業は、妻の育児休業期間の短縮に資するだけでなく、夫の家事・育児スキルの向上や家庭参加意識の定着を通じて、長期的に妻のキャリア形成を支える効果も期待できる。

男性が単独で育児休業を取得する事例がほとんど見られない日本においては、まずはそのような選択肢が存在することを広く周知し、その実践を後押ししていくことが重要であろう。

育児休業を次なるステージへ引き上げる

以上で見てきたように、育児休業の取得がキャリア上のリスクとならないようにするためには、「育児休業」を次なるステージへ引き上げていくことが求められている。

これまでの育児休業は、どちらかといえば女性の離職を防止する制度として位置づけられてきた。

しかし今後は、子育て期にある女性の活躍を積極的に支援する制度へ、さらに必要に応じて男性もある程度の期間を取得することが可能な制度へと進化させていくことが求められる。

そのために、企業に求められることは大きく三つある。

一つ目は、育児休業が真に活躍促進の仕組みとして機能しているかを点検し、休業取得が昇進・昇格などのキャリア上の不利に働かないよう、復帰後の人員配置や評価制度も合わせて整備していくことである。

二つ目は、制度が男女ともに利用しやすいものになっているかを確認し、社内研修などを通じて職場の理解を深めていくことである。

三つ目は、育児休業取得者とそれをフォローする社員の公平性にも留意し、両者の分断を防止することである。

近年では、取得者の同僚に一律で手当を与える企業も増えており、育児休業の取得が歓迎されるような職場風土を醸成していくことが重要である。

あわせて、育児休業の取得をめぐる価値観についても、一人ひとりがアップデートをしていくことが求められる。

現状では、男女間で取得率や取得期間に大きな隔たりがある。

「女性が育児休業を取るのが当たり前」との思い込みを見直して、夫婦それぞれのキャリアや家庭生活にとって望ましい選択は何かという視点で、丁寧に話し合っていくことが重要である。

さらに、育児休業を取得する当事者だけでなく、その周囲にいる同僚や上司、家族を含めた環境の側にも意識の変化が求められる。

男性が一定期間の育児休業を取得することや、女性が必ずしも主たる育児の担い手とならない選択に対して、否定的な評価や先入観を持っていないか、社会全体として改めて点検していく必要があるだろう。

(※情報提供、記事執筆:第一生命経済研究所 ライフデザイン研究部 副主任研究員 福澤 涼子)

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