年明け早々「死了么(死んだのか?)」アプリが首位に

2026年に入り、中国で一風変わったアプリが爆発的な人気を集めている。

その名は「死了么(Si Le Me)」(直訳すると「死んだのか?」)」である。

一見ショッキングな名称のこのアプリは、1月以降、有料ユーザー数が数日で急増し、中国のApple有料アプリランキングで首位に躍り出た。

名前のインパクトだけでなく、多くの都市住民、特に若年層を中心に利用が急速に広がっている。

「死了么」は、2025年5月に中国でリリースされた比較的新しいアプリである。

名称そのものが議論を呼び、話題性を高めたことも口コミで広まる一因となったと考えられる。

人気の背景には、単なるネーミングのユニークさだけでなく、現代中国の都市生活者が抱える孤独感、リスク意識の変化がある。

機能はシンプルな“生存確認”

では、このアプリは具体的にどんな機能を持っているのであろうか。

使い方は非常にシンプルである。

ユーザーは利用開始時に緊急連絡先を設定し、毎日画面上の大きなボタンをタップして「生存確認」を行うだけでよい。

もし一定期間(2日間)タップが行われなかった場合、アプリは設定された緊急連絡先に自動でメールを送信し、本人の安否に異変がある可能性を知らせる仕組みになっている。

このように「生存確認」と「通知」という機能に特化し、あえて多くの機能を設けていない点が、手軽に安心感を得られるサービスとして多くの共感を集めたのであろう。

また、料金は当初1元(20円)であったが、人気の高まりにともない8元(160円)に引き上げられた。

少額とはいえ、ユーザーにとっては、日々の安心に対する1種の“投資”として受け止められている。

広がる若年層の孤独感と“死”へのリアルなニーズ

「死了么」がこれほど広く受け入れられた背景には、中国社会における急速な構造変化がある。

経済成長と都市化に伴い、一人暮らしの人口は増加している。

2025年6月時点で、中国の20〜45歳の単身世帯の人口は約1億8,000万人に達し、2020年と比べて23.7%増加した。

こうした変化の背景には、都市化の進展、就職や転勤に伴う移動の増加、ライフスタイルの多様化、さらには結婚や家庭形成に対する価値観の変化など、複数の要因がある。

とりわけ都市では、仕事や学業を理由に地方から大都市へ単身で移り住む若者が増え、家族と離れて暮らす生活は珍しいものではない。

また、デジタル化の進展によってオンライン上のつながりは広がる一方、地縁や血縁といった従来のリアルな人間関係やセーフティネットは次第に希薄化しつつある。

このようなライフスタイルは、自由や利便性の象徴であると同時に、孤独や将来への不安を内包している。

近年、中国では独居化や単身世帯の増加を背景に、孤独死や無縁社会といった問題が注目されるようになった。

さらに、孤独死後の遺産処理に関する報道が増え、財産管理を本人に代わって行う後見人制度への関心も高まりつつある。

中国社会における家族のあり方は急速に変化しているが、政府が前提としているのは依然として伝統的な家族観であり、政策や制度の面では独身・未婚層への支援が十分とは言えない。

多くの若者が「必ずしも結婚するとは限らない」と考えるようになる中で、老後や最期を一人で迎える可能性を現実的な問題として意識するようになったとみられる。

こうした社会的な不安も「死了么」の人気を後押ししていると言えよう。

アプリ名の直接的な表現は一見過激にも思えるが、その背後には、将来に対する若者たちの切実な不安が投影されているのかもしれない。

「死了么」の人気は、都市文化の中で生まれた孤独や不安、そして多くの都市住民が感じるリアルなニーズを映し出している。

変化する社会のリスクにどう対応するか

「死了么」のアプリ名のインパクトは国内外でも大きな話題となり、SNSやネット掲示板では賛否両論が沸き起こった。

名称については「不吉だ」、「怖い」といった批判の声がある一方で、「率直でユニーク」、「実用性がある」と肯定的な意見も多い。

名前や表現に対する社会的な配慮が求められる中で、あえて直球の「死了么」という名称を用いたことが注目を集めた反面、死を扱うこと自体に不快感を覚える層も少なくない。

こうした反応を受け、アプリ開発者は名称を「Demumu」に変更すると発表している。

「死了么」は安否確認アプリとして一定の実用性を持つ一方で、いくつかの課題や議論を引き起こしている。

まず指摘されているのはプライバシーとデータの取り扱いの問題である。

ユーザーの位置情報や生活行動といったセンシティブなデータが関わる可能性があるため、その取り扱いについての透明性と安全性の確保が不可欠となる。

また、メールだけでなくSMSへの対応など、さらなる機能拡充を期待する声もある。

さらに、孤独や精神的な不安という根深い社会問題への対応として、安否確認アプリだけでは不十分であるとの指摘もある。

ソーシャルキャピタルの醸成、地域コミュニティの再構築、若者のメンタルヘルス支援など、生活者の安心を支える総合的な制度やサービスの整備が求められている。

例えば高齢者向けの見守りサービスや、都市での交流スペースの拡充など、アプリだけではカバーできない領域へどう取り組んでいくのかが今後の重要な課題となろう。

(※情報提供、記事執筆:ニッセイ基礎研究所 保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 片山ゆき)