オーディション番組が足元で再燃

昨年(2025年)のNHK紅白歌合戦にもオーディション番組出身のアーティストが複数出演する等、近年、男女問わずアイドルグループのオーディション番組が人気を博している。

人気の要因としては、熾烈な競争環境下で参加者が困難を乗り越え成長し、夢に向かう姿が視聴者の感動と共感を呼ぶ点が挙げられる。

加えて、視聴者投票の導入等により「自分たちがデビューを後押しする」という参加体験が生まれ、番組外でもSNS上で議論や応援が持続しやすいことも要因の一つだ。

日本では1960年代に素人参加型のオーディション番組が登場し、その後も形を変えながらタレントやアイドルを輩出してきた。

2000年代には英国・米国を中心に視聴者投票を取り入れた番組が浸透し、同様の派生番組が世界的に普及した。

さらに昨今は、特定の参加者(推し)を見つけて応援し、SNS等で情報共有しながら番組に没入する「推し活」文化の後押しもあり、同年代の若者だけでなく30〜40代にも視聴が広がっている。

番組内の参加者、審査員、歌やダンスのトレーナーは、舞台製作やスポーツチームの短期合宿等と同様に期間限定で編成される「組織体」であり、参加者たちは、短期間で成果(審査に耐えるアウトプット)を出さねばならない。

この構造は、プロジェクト型組織、部門横断タスクフォース、兼務チームが増える企業の働き方とよく似ている。

アイドルグループのオーディション番組を教材として、うまく回るチーム/組織運営を、人事・組織開発の観点から考察する。

強いチームをつくるために必要なこと

オーディション番組では、経験豊富/未経験、メディア露出経験のあり/なし、国籍や言語の違い等、多様なバックグラウンドを持つ参加者達が集められ、審査が行われる。

アイドルグループ結成のための審査であるため、チームワークやメンバー同士の調和等の確認を目的として、個人審査だけでなく即席チームに対する審査も行われる。

チーム審査では、初対面のメンバーが多いなか、短い準備期間で完成度の高いパフォーマンスを求められる。

そのため、リーダー選出やポジション決めが難航しやすく、結果として、実力者揃いのチームでもチームとして噛み合わない例もあれば、個々の課題を補完し合い、実力以上の成果を出す例もある。

チームの力が最大限発揮される状態をつくるには、「安全な環境をつくる」「弱さを共有する」「共通の目標を持つ」の3本柱が必要だとされる。

第1の柱「安全な環境をつくる」というのは、一言でいうと、「心理的安全性」の構築である。

心理的安全性とは、率直に発言しても対人関係を損なわないとメンバーが信じられる状態である。

即席で作られたチームほど前提や価値観が揃っていないため、遠慮が生じやすい。

ここで求められるリーダー像は、チームを強く牽引する人というよりは、場を整えられる人である。

例えば「反対意見は歓迎」「人格批判はしない」「困りごとは早く出す」といった最低限のルールを定め、発言が偏る場合は問いを配る(例:「不安点はある?」)等といった行動が考えられる。

このような安全な環境をつくることで、練習の密度と修正速度を上げることが可能になる。

第2の柱「弱さを共有する」だが、初対面同士のチームでは、たとえ苦手なところがあっても「迷惑をかけたくない」「関係性ができていないので頼りづらい」といった心理が先に立ち、助けを求めたり質問したりすること自体が難しい。

オーディション番組でしばしば見られるチーム内の衝突は、個々人の能力不足というより、この「頼れなさ」が生む情報不足や練習の非効率に起因していると考えられる。

例えば、歌やダンスが上手い参加者が「自分もここは不安」と先に伝えたり、練習の最初に「困っている点を先に出す」時間を確保したりして、頼ることのハードルを下げることが重要になってくる。

弱さの共有は単なる感情論ではなく、課題を早期に表面化させ、教え合いと修正を加速させるために必要なことである。

企業でも同様に、ドラフトの早期共有、短い間隔でのレビュー、相談先の明確化等、「聞いてよい」「頼ってよい」が自然に起きる導線を設計できるかが、生産性を左右すると考えられる。

第3の柱、「共通の目標を持つ」だが、アイドルグループのオーディション番組では、参加者の個人目標は「デビューしたい」で概ね一致している。

さらにチーム審査においても、「全員で良いパフォーマンスをしたい」「勝ちたい」という方向性が揃っていることが多い。

つまり番組は、共通目標という強い推進力が、初期条件として比較的満たされている環境でもある。

だからこそ、短期間でも一体感が生まれ、追い込みが効き、驚くほどの成長が起きる。

企業の経営やチームに当てはめて考えると、この点の示唆が大きい。

明確で具体的な目標があるほどチームやグループの成果が上がることが数々の先行研究で明らかにされている。

共通目標が曖昧な組織では、各人が合理的に動いた結果として、優先順位が分散し、意思決定が遅れ、手戻りが発生しやすくなる場合がある。

一方で、全員が「何のために」「何を成功とするか」が腹落ちすれば、迷ったときの判断軸が一本化され、役割分担や協力の質が上がり、短期でも成果が出やすい。

オーディション番組から学ぶ「評価制度」

オーディション番組を組織として見たときに特筆すべきは、評価が単なる選抜の仕組みではなく、育成と納得感を同時に成立させる運用システムとして設計されている点である。

オーディションでは、審査員コメント、順位、投票結果までが可視化され、参加者も視聴者も同じ情報を共有している。

対して、一般の職場では、評価基準は抽象的になりやすく、評価のプロセスはブラックボックスになりやすい。

その結果、「なぜあの人が昇進候補に選ばれて自分が選ばれないのか」が腹落ちせず、納得感の欠如がエンゲージメントを損ねる。

ここではオーディション番組の評価制度設計から得られる示唆を4点に整理する。

第一に、「手続きの公平性」を確保する点数評価と基準の明確さである。

納得感は「結果的な公平性」ではなく、「手続きの公平性」で決まる。

全員が同じ条件で実力を発揮できることは、現実には難しい。

番組でも、チーム構成、選曲、パート配分、編集のされ方等、結果に影響する変数は多い。

それでも人は、基準が説明され、意見やフィードバックが与えられれば、一定の納得を得やすい。

組織でも、評価に不満が出るときは、結果そのものより「説明がない」「基準が曖昧」「日々の期待値が共有されていない」といった手続き面に原因がある場合が多いと考えられる。

第二に、その公平性を「育成」につなげるのが、言葉による評価である。

たとえ点数が付いたとしても、参加者が次に何を直せばよいかはコメントに依存する。

良い審査員ほど「良かった/悪かった」ではなく、「次に上げるならここ」「あなたの強みはここ」と具体的な改善可能性を示している。

職場でも同様に、評価面談を単なる「通知」で終わらせるのではなく、「育成」として機能させることが重要となる。

第三に、短いサイクルで回る「アジャイルな評価運用」が学習速度を上げる。

オーディションでは、短いサイクルで課題が提示され、練習し、審査で検証、改善点が言語化される。

この高速回転が成長を生むと考えられる。

職場でも、年1回の評価だけでは改善の機会が少ない。

小さなレビューとフィードバックを増やし、評価を「過去の査定」から「次の成果の設計」に近づけることが重要となるのではないだろうか。

第四に、これらの育成・評価の質を担保するのが「公開」である。

番組では、審査員コメント、順位、投票結果が公開され、参加者だけでなく視聴者も同じ情報を共有する。

公開は透明性を高めるだけでなく、審査員自身にも説明責任を生み、評価の言語化や一貫性に対する「適度なプレッシャー」として働く。

職場では全面公開は難しいが、評価軸の明文化、フィードバックの記録、評価のすり合わせ等、ブラックボックス化を抑える仕掛けは導入できる。

評価制度を機能させるのは制度設計そのものよりも、運用の透明度と説明可能性だという点は、番組が示す重要な示唆である。

オーディション番組は企業の縮図―期間限定の「組織体」を機能させるには

番組内の参加者、審査員、トレーナーは、いわゆる期間限定で編成される「組織体」であり、これはプロジェクト型組織、部門横断タスクフォース、兼務チームが増えている企業の縮図ともいえる。

最後に、オーディション番組から学ぶ期間限定の「組織体」を上手く機能させるための示唆を挙げておきたい。

第一に、オンボーディング(立ち上げ)の質がすべてを決める。

番組の初回は、ルール、評価軸、課題の形式が明確に提示される。

これがあるから、参加者は迷いを最小化し、練習に集中できる。

企業のプロジェクトでも同様に、開始時点で「ゴール(何を成功とするか)」「役割(誰が何を決めるか)」「意思決定(合意の取り方)」「情報共有(頻度と媒体)」を決めるだけで、後半の摩擦と手戻りは劇的に減る。

逆に、ここを曖昧にしたまま走ると、後半で「認識のズレ」が顕在化し、修正コストが跳ね上がる。

第二に、役割は固定ではなく、仮置きして更新する。

オーディションでは、当初は歌やダンスが上手い人や年長者がセンターやリーダーになりやすいが、後に役割が見直されることがある。

職場でも、最初の役割分担に固執せず、「現時点の最適」を短い周期で見直す方が成果につながる。

役割の変更を「失敗」のように扱わず、「戦略」として扱う設計が重要となる。

第三に、成果だけでなく関係性にも投資する。

番組で強いチームは、練習量だけでなく、コミュニケーションの質が高い。

互いの強み/弱みを理解し、言いにくいことを言える。

職場でも、タスク管理のみではチームは強くならない。

短い雑談、振り返り、感謝の言語化等、一見遠回りに見える行為が、結果として修正スピードと実行力を押し上げるのではないだろうか。

アイドルグループの活動自体は、中長期のブランド形成やファンとの関係構築を前提とする点で、企業のプロジェクト運営とは時間軸が同じとは限らない。

扱ってきたのはあくまでも「デビューに至るまでの育成・選抜プロセス」という期限付きの組織運営に限った示唆であり、それを企業の期間限定チームに援用できる、という整理であることをご留意いただきたい。

今後オーディション番組を見る機会があれば、「誰がデビューするか」だけではなく、「なぜ参加者たちは短期間で伸びるのか」にも目を向けてほしい。

良いチーム、組織づくりのヒントが見えてくるだろう。

※なお、記事内の「注釈」に関わる文面は、掲載の都合上あらかじめ削除させていただいております。ご了承ください。

(※情報提供、記事執筆:第一生命経済研究所 総合調査部 副主任研究員 髙宮咲妃)