「デジタルな麻薬」にしないための処方箋
これまでのデータが突きつける現実は、AIコンパニオンが孤独を癒やす「特効薬」であると同時に、一歩間違えれば現実の人間関係を蝕み、精神を支配する「デジタルな麻薬」にもなり得るということだ。
2025年8月、米国で10代の若者がAIチャットボットとの対話に過度にのめり込み、現実世界から孤立した末に自ら命を絶つという痛ましい事件が報じられた。
遺族は、開発企業に対し「利益優先の設計が、判断力の未熟な若者を死に追いやった」として提訴に踏み切っている。この悲劇は、AIへの過度な没入が単なる時間の浪費ではなく、生命に関わるリスクであることを社会に突きつけている。
では、私たちはこのリスクにどう向き合うべきか。
ユーザーの「自制心」や「リテラシー」に期待する段階はすでに過ぎている。なぜなら、生成AIの対話モデルは、人間の脳が最も快楽を感じる「報酬系」を刺激するように、工学的に最適化されているからだ。
スタンフォード大学のBJ・フォグ博士が提唱した理論によれば、テクノロジーが人間の行動を操るためには「動機」「能力」「トリガー」の3要素が必要とされるが、AIコンパニオンはこの全てを満たしていると考えられる。
常に肯定してくれることで「動機」を高め、スマホ一つでアクセスできる「能力(容易性)」を提供し、プッシュ通知や魅力的な返答で絶えず「トリガー」を引き続ける。
このように、「依存するように設計された」システムに対し、孤独や不安を抱えた個人が意志の力だけで対抗するのは、AIに重度に依存している人間に「気合で治せ」と言うのは困難である。
したがって、求められる「処方箋」は、個人の心がけではなく、企業と国による「構造的な介入」以外にない。
企業側には、開発段階からユーザーの依存リスクを低減する機能の実装が必要である。しかし、営利企業である以上、ユーザーの滞在時間を延ばすインセンティブが働くため、これらを自主規制のみに委ねるには限界がある。
ここで不可欠となるのが、国家による法的なガードレールだ。EUが世界に先駆けて施行した「AI法(EU AI Act)」では、人の意識を操作するようなAIシステムを「許容できないリスク」として厳しく規制している。
日本においても、AIコンパニオンを単なるアプリではなく、メンタルヘルスに直接作用する「高リスクAI」として定義し、未成年者への提供制限や、依存性を高めるアルゴリズムの使用禁止といった法的規制を早急に整備する必要がある。
AIを「デジタルな麻薬」にしないために、外部からの強力なブレーキをどう社会システムとして組み込むか。その法整備と倫理規定の確立こそが、テクノロジーと共存するための真に実効性のある唯一の解決策となるはずだ。
※情報提供、記事執筆:第一生命経済研究所 ライフデザイン研究部 主席研究員 テクノロジーリサーチャー 柏村 祐