大枠の考え方

上記のようなことを記すと、財政再建至上主義という批判を浴びるであろう。だから、発想を転換して、どのくらいの追加的な歳出拡大が許容できるのかを考えてみた。

家計などに対する財政的な支援を極力維持して補正予算を組み、かつ、PB黒字化を両立させる選択である。

つまり、「物価高対策と財政再建の二兎」を追うという方針である。筆者は、この二兎を追うことこそが、「責任ある積極財政」だと信じている。

以下、少しテクニカルな話になるのをお許しいただきたい。

総合経済対策に伴う2025年度補正予算の規模拡大は18.3兆円(183,034億円)である。この金額を工面するのに、11.7兆円(116,960億円)の新規国債発行を行う構えである。

ならば、新規国債発行をゼロにするために、補正予算の規模を6.6兆円まで減額すればよい(予算案18.3兆円→修正後6.6兆円)。削減する補正予算の歳出規模は、11.7兆円ということでもある。

ボトムアップ・アプローチ

次に、総合経済対策の中から何を削減すれば、11.7兆円の削減が可能になるかを考えてみた。個別の案件の中から、中止する内容を考えてみたということである。

まず、不要不急という意味では、予備費7,098億円は要らないと思う。

優先順位として、2025年度内にどうしても支出する必然性がないのは、「危機管理投資・成長投資による強い経済の実現」64,330億円、「防衛力と外交力の強化」16,560億円である。

これは本来、2026年度本予算で検討すべき内容であろう。これら3者を合計すると、87,988億円(特別会計分は除く)になる。

しかし、この積み上げ方式で計算した8.8兆円では、大枠から計算した11.7兆円にはまだ足りない。そこで、少し乱暴なやり方だが、重点支援交付金2.0兆円を削減する。

実は、自然増収28,790億円によって、それを地方交付税交付金に回すという仕組みになっている。その金額が13,041億円になるので、これを以って実施しようとしていた物価高騰対策(おコメ券、商品券など)に対応すればよい。

これで、ボトムアップで積み上げた歳出圧縮の合計額は8.8兆円から10.8兆円になり、11.7兆円に近づく。新規国債発行額を11.7兆円から0.9兆円に減額することは、年度内に本当に必要な内容を精査することで可能であると考える。

筆者は、「責任ある積極財政」の看板を維持しつつ、新規国債発行額を0.9兆円とし、2025年度内でもPB黒字化を狙えると考えている。繰り返しになるが、「物価高対策と財政再建の二兎」を追うという方針は堅持しても、総合経済対策を行うことはできるという立場である。

※情報提供、記事執筆:第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト 熊野 英生