(ブルームバーグ):米金融政策に関して安心材料となる知らせが届いた。米連邦準備制度理事会(FRB)が12地区連銀総裁のうち11人を全会一致で再任(任期5年)したと発表。今回の決定により、FRBの独立性を脅かす重要なリスクが排除された。またホワイトハウスが影響力の拡大を狙っても、中央銀行を意のままに操ることがいかに困難であるかを示した。
これで当面は、政府の長期借り入れコストへの圧力が後退し、政治化したFRBが過度なインフレ再燃を許容するのではないかとの不安を和らげるだろう。
トランプ大統領は1月の2期目就任以降、世界で最も影響力のある米中央銀行に対して、低金利政策を押しつけようとする誤った試みを続けてきた。折に触れパウエル議長を名指しで批判。クック理事の解任を試みているほか、クーグラー理事の退任後には側近のスティーブン・マイラン氏を理事に起用した。また、パウエル氏の任期満了を迎える5月には、米国家経済会議(NEC)のハセット委員長のような、自身により忠実な人物を次期議長に指名する意向を示している。
今回の再任プロセスを巡っては、ホワイトハウスが介入し、大統領に近い人物を送り込む機会となるのではと懸念する声も評論家から上がっていたが、その心配は払拭(ふっしょく)された。
FRBは制度上、2-3人の任命があっても、簡単には政治的に取り込まれない構造になっている。
政策決定を行う連邦公開市場委員会(FOMC)会合で投票権を持つのは12人だ。理事会の7人は政治サイクルと重ならないよう意図的にずらした14年の任期を務める。残る5人は12地区連銀総裁からで、連銀総裁は大統領が直接任命するわけではない(ニューヨーク連銀総裁は常任の投票権を持ち、それ以外の4人が輪番で入れ替わる)。
金融政策を動かすために必要な7票を確保するには、トランプ氏は理事会全員の交代(ほぼ確実に違法な行為)か、理事に連銀総裁の再任拒否を促し、その後に自らに近い人物を送り込むという策を講じる必要があった。しかし、11人の連銀総裁についてはそうした事態は起きず、さらに全会一致の決定だったことから、そもそも深刻な脅威ではなかったことが示唆される。12人目のアトランタ連銀のボスティック総裁はすでに来年の任期満了を持って退任する意向を表明していた。
クック理事の解任を巡るトランプ氏の試みは、依然として連邦最高裁判所で審理中だが、今回の決定により、策略に満ちた結末はすでに回避されたことになる。
来年のFOMCで投票権を持つ4人の連銀総裁のうち、クリーブランド連銀のハマック総裁とダラス連銀のローガン総裁の2人は最近、FRB高官の中でも特にタカ派的な発言が目立つ。ミネアポリス連銀のカシュカリ総裁も利下げに慎重だ。フィラデルフィア連銀のポールソン総裁も、より曖昧な立場だが、利下げを機械的に支持するタイプではない。
もちろん市場の関心は、次にトランプ氏が誰をFRB議長に指名するかに移る。長年の側近であるハセット氏を選べば、同氏はトランプ大統領の影響力に抵抗できるかどうか疑問視する金融市場やFRB関係者を説得する必要に迫られそうだ。またハセット氏は関税などホワイトハウスの非伝統的な政策を積極的に擁護してきた。そのため、経済データに基づく適切かつ説得力のある分析だけが、追加利下げの必要性について他のFRB高官を納得させられると認識するだろう。
一方で筆者が以前から指摘しているように、金融市場やトランプ氏がより好む可能性がある議長候補がもう一人いる。ウォラー理事だ。ウォラー氏も今年、利下げを提唱してきたが、広範な反対意見を招くことなく、かつ市場に何か別の動機があるのではと懸念させることもなく、FRBを運営できる実績と制度的な信頼性を備えている。長期金利は金融政策だけでなく、中銀の信認にも影響されるため、30年物住宅ローンなどの金利を引き下げるにはウォラー氏の方がはるかに適任かもしれない。
もっとも、トランプ氏が最終的に最有力候補とされるハセット氏を議長に指名したとしても、今回の決定により、金融市場や国民が最悪のシナリオを懸念する必要はほぼなくなった。トランプ氏がどれだけ注力しても、独立性を守るよう巧みに設計され、現在も原則を重んじる専門家らで構成されるFRBを弱体化させることはできないだろう。
(マット・レヴィーン氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)
原題:Fed Independence Just Got a Bit More Secure: Jonathan Levin(抜粋)
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