(ブルームバーグ):米労働市場では「雇用も解雇も低水準」となっており、多くの人が就業機会から取り残されている。
職を見つけるのに苦労しているのは、最近の大学新卒者だけではない。職を失った中堅層はやむなくパートタイムの仕事に就き、専門サービスから製造業まで幅広い分野で採用が停滞。半年以上にわたり職に就けていない失業者の割合は全体の4分の1を超え、新型コロナ禍期を除けば2010年代半ば以来の高水準となっている。
雇用創出の著しい冷え込みは懸念を呼び、米連邦準備制度理事会(FRB)は9月に利下げに踏み切った。
パウエルFRB議長は利下げ決定後の記者会見で「解雇も採用も少ない環境だ」と発言。レイオフが広がり始めれば、「極めて急速に失業率の上昇へと波及しかねない」と警告した。
エコノミストは10月3日に発表予定の9月雇用統計について、雇用者数の伸びが再び低調にとどまると予想。失業率は4.3%と比較的低水準が続く見通しだが、望まない仕事に縛られている人や不完全雇用に陥っている人の増加という現実を覆い隠している。

雇用主は景気の先行きを見極めながらも、おおむね従業員を維持している。ただし、スターバックスやナイキ、ベスト・バイといった大手企業が人員削減を発表しているのも事実だ。
解雇が少ないからといって、職探しをする人々にとって安心材料にはならない。ゴールドマン・サックス・グループのエコノミストによれば、労働市場における「人材の入れ替わり」 はコロナ禍前の水準を大きく下回る。
同社の分析では、人々が現在の職にとどまる傾向が強まり、新規参入者が排除されやすくなっている。この現象は州や産業を問わず見られるが、特に建設、娯楽・ホスピタリティー、小売り、専門サービスの4分野で顕著だという。
先延ばし
アレックス・イングリッシュさん(38)は労働市場の流動性低下を身をもって経験した。1年余り前にカリフォルニア州の高級品輸入業でマーケティング職を失ったイングリッシュさんは、地元フロリダ州タンパに戻り、人脈を頼りに再就職を模索した。
数カ月にわたって電話をかけ、地域イベントでネットワークを広げ、約50件の求人に応募したものの、成果はなかったという。
最近になって、医療用マリフアナ(大麻)を扱う小売り業で「バドテンダー(調合師)」の仕事に就き、顧客への助言や販売を行っている。数多くのマーケティング職で採用への期待を持たされながら先延ばしにされてきたイングリッシュさんは、自分の将来は大麻業界にあるのかもしれないと考え始めている。「もしかすると、これは受け入れざるを得ない選択なのかもしれない」と語った。
「雇用主は景気の先行きに自信を持てずにいるようだ。私が知っている人たちも、今の職にしがみつき、やや不安を抱えている」と付け加えた。
若年層
米国の若年層はこの10年近くでもまれに見る厳しい雇用環境に直面している。16-24歳の労働者の失業率は8月に10.5%に上昇し、コロナ禍を除けば2016年以来の高水準となった。


キーア・ナンディさん(22)は、この1年で約350件の求人に応募し、数え切れないほどのネットワーキング電話や非公式の面談に臨んできた。シンシナティ大学を5月に優等で卒業し、PwCでのインターンシップやドイツでのフェローシップを経ても、フルタイムの職を見つけることができていない。
「これだけの実績を積んでも、結局は苦労している」と経済学・ビジネス分析学で学士号を取得したナンディさん。「ひどく落ち込むこともある。自分が積み重ねてきたことのほぼ全てに、価値を見いだせなくなる」と話した。
新卒者にとって労働市場は特に厳しい。テクノロジーをはじめとするホワイトカラー産業で採用が大幅に減速している上、人工知能(AI)の発達でかつて彼らの登竜門だったエントリーレベル職の一部が失われている。
原題:‘Low-Hire, Low-Fire’ US Job Market Leaves Millions Out of Work(抜粋)
--取材協力:Georgina Boos.
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