世界第5位、2億3000万人以上の人口を抱える南アジアの大国パキスタン。その豊かな人的資源は、本来であれば国を成長させる原動力となるはずです。しかし今、この国は深刻な「人材流出」の危機に直面しています。それは単なる出稼ぎではなく、国の未来を担うべき中間層や高度なスキルを持つ専門家たちが、希望を失い、次々と祖国を後にしているのです。

牛乳の価格は「仏パリより高い」 毎月の光熱費が家賃と「ほぼ同額」に

「調子はどうですか?」という問いに、ほとんどのパキスタン国民は、良くても「アンハッピーだ」と答えるでしょう。

その言葉を裏付けるように、国の経済見通しに対する人々の悲観的な見方は急増しています。

賃金の上昇は激しいインフレに全く追いつかず、国民は日に日に貧しくなっているのが実情です。

中間層の生活は、特に深刻な打撃を受けています。

毎月の光熱費が家賃とほぼ同額になるという異常事態に陥っています。

さらに、この2年間で食品価格は50%近くも急騰し、高止まりを続けています。

かつては非課税だった牛乳のような生活必需品が、最大の都市であるカラチでは、いまやアムステルダムやパリといったヨーロッパの裕福な都市よりも高価になっているのです。

このような状況下で、人々が国外に活路を見出そうとするのは自然な流れかもしれません。

しかし、カラチでIT企業を経営するヴェカル・イスラム氏は、「今回は状況が違う」と指摘します。

「より良い機会を求めて出国するのと、希望を失って必死に逃げ出すのとでは、全く意味が異なります」。

今起きているのは、後者の「脱出」に近いものです。