メタボ該当者・予備群の割合の引き下げに向けた4つのアプローチ

最後に、ここまでの考察を踏まえ、メタボ該当者・予備群の割合を効果的に引き下げるためのアプローチについて、次の4つの視点から私見を述べる。

性・年齢に着目した対策の強化

男性のメタボ該当者の割合は女性の約3倍に達しており、かつシニアになるほど割合も高まることから、性・年齢を考慮したアプローチが重要である。

例えば男性の場合、飲酒や喫煙、食習慣や運動不足といった生活習慣に加え、内臓脂肪が蓄積しやすい体質的な特徴も関係しているとの見方がある。

一方、女性は男性より該当者の割合は低いものの、女性特有の代謝やホルモンの変動等も考慮し、ライフサイクルに応じた介入も重要だ。また、男女を問わずストレス等の心理的側面も影響するだろう。

こうした行動様式や健康意識等を踏まえた介入策に加え、メンタルヘルスも支援することで継続的な行動変容を促す必要がある。

ライフステージに応じた保険者のシームレスな支援体制の構築

特定健診の対象者(40歳以上75歳未満)は、組織の中核を担う働き盛りの世代からセカンドライフを迎えるシニア世代まで多岐にわたる。特に65歳以上では、退職等により企業の健康管理の枠組みから外れる人が増加する。

こうしたライフステージの移行期には、主として健康管理の担い手が企業及び被用者保険から地域へ移るため、支援をシームレスにつなぐことが不可欠だ。

例えば、医療DXを推進して保険者間で健診データを連携させたり、AI技術等を活用して健診データを分析し高リスク群を早期に可視化・フォローしたりできる、横断的な健康管理プラットフォームの構築が求められる。

その結果、個別最適化されたきめ細かな健康支援も促進されるだろう。但し、その実現には健診データの標準化や個人情報保護といった課題もあり、個人の健康を生涯にわたって支援するためには、それらを乗り越えなければならない。

また、自治体や地域社会が主体となり、保険者の垣根を越えて継続的に参加できる健康支援プログラム等を構築し、利用を促すことも重要である。

薬剤服用者に向けた生活習慣改善アプローチ

前述のとおり、生活習慣の改善だけでは十分な効果が得られない場合もあり、薬物療法を継続的に併用することは必ずしも否定されることではない。

一方で、生活習慣の改善が進まないまま薬物療法に依存し続ける可能性がある点にも留意が必要である。メタボ該当者の年間平均医療費は非該当者よりも約9万円高いという報告もあり、適切な治療と合わせて日々の生活習慣の改善を継続することで医療費の増加を抑え、生活の質(QOL)の低下を防ぐことが肝要だ。

例えば、医師・管理栄養士・理学療法士・保健師など多職種の連携により、薬物療法と生活習慣の両面から改善を促す。

また、生活習慣を改善するスキルや知識を習得できる教育プログラム、高血圧等の治療用補助アプリの開発・活用を通じた支援も不可欠である。

薬物療法と生活習慣の改善を両輪と位置づけ、最適な体質改善を目指す介入手法の確立が求められる。

特定保健指導の実施率向上

特定保健指導とは、特定健診の結果に基づき、メタボや生活習慣病のリスクが高い人に対して行われる健康支援のことである。

医師や保健師、管理栄養士といった専門スタッフが、運動習慣や食生活、喫煙等の生活習慣の改善に向けた個別指導を行う。

2023年度の実施率(特定保健指導終了者/同対象者)は27.6%(前年度26.5%)で、国の目標である45%には届かず、低い状況が続いている。

社会的に「生活習慣病=自己責任」といったイメージが根強く残っており、積極的な受診行動につながりにくい一因になっているとの指摘もある。

特定保健指導の実施率向上は、性・年齢別対策やライフステージを考慮した支援体制の実効性を高める上でも重要であり改善が求められる。

但し、本稿では、特定健診に基づくメタボ・予備群データ等の分析を中心に論じているため、同実施率改善に関する検討は別の機会に譲りたい。

国民の健康づくりの基本方針である「健康日本21(第三次)」は、目標の一つとして「メタボリックシンドローム該当者・予備群の減少」を掲げている。

この対策は、個人の生活習慣病を予防するだけでなく、健康寿命を延伸し、社会全体の健康資本を維持・向上させる国家戦略の一翼を担うものである。

まずは、私たちが特定健診を確実に受診することが肝要だ。その上で、企業、自治体、地域社会、個人が切れ目なく連携し、性、年齢、ライフステージなど多様な特性に応じた重層的な支援体制を構築することが求められる。

こうした取り組みを一体的に推進することは、わが国における「健康長寿・エイジレス社会」の実現と社会全体の活力向上に資するものと期待される。

(※情報提供、記事執筆:第一生命経済研究所 総合調査部 研究理事 谷口 智明)