本稿では、2010年頃以降の日本における死亡場所の割合変化について国民意識の観点から考察していく。
希望する「最期の居場所」の国民意識に関する調査は複数存在する。
内閣府の調査では、各年度とも希望する「最期の居場所」を「自宅」と回答した割合が最も高く、「医療施設」「介護施設」を上回っている。
一方で、厚生労働省は具体的なシチュエーションを明示して希望する「最期の居場所」を調査している。
ここでは必ずしも「自宅」が最も高い割合ではなく「医療施設」「介護施設」が最も高い場合もあり、ケースによって構成比に差異が認められる。
両調査の結果を確認すると条件やケースなどによって「結果はさまざま」であった。希望する「最期の居場所」に関する国民意識は2010年頃以降において絶対的なものではなく、状況に左右されながら揺れ動くものだと考えられるだろう。
一方、調査結果が示す希望する「最期の居場所」の割合と実際の死亡場所の構成比には少なからず乖離が認められる。
国民意識が死亡場所の割合変化にどのように影響するのかという視点で考えると、「最期の居場所」に対する国民の「期待度」が死亡場所の割合変化に作用している可能性が指摘できる。
当研究所では「人口減少時代の未来設計図〜社会・経済、そしてマインドの変革〜」をテーマに、人口問題へのリサーチを強化している。
2010年頃以降の日本における死亡場所の割合変化について、特に社会環境変化という観点で、主に介護の視点から考察した。2010年頃以降の日本における死亡場所の割合変化について、特に国民意識の観点から検討する。
なお、人生の最期の迎え方は一人ひとりの意思と尊厳において決定されるべきものである。
レポート内では大局的な死亡場所割合の傾向などを示しているが、決して特定の最期の迎え方を称揚・棄損するような意図はなく、人生の幕の下ろし方に関する多様な価値観・考え方などを進めたり退けたりするような意図もない。
希望する「最期の居場所」に関する国民意識
資料は厚生労働省「令和5年人口動態統計月報年計(概数)の概況」「人口動態調査」に基づき、2011年から2023年までの死亡者数と死亡場所の構成比を年別に整理したものである。
2010年頃以降では死亡場所の構成比において老人ホーム・介護医療院・介護老人保健施設での死亡(以下、施設死と呼ぶ)や自宅での死亡(以下、在宅死と呼ぶ)の割合は増加し、病院・診療所での死亡(以下、病院死と呼ぶ)の割合は減少している。
では、2010年頃以降の死亡場所の構成比の変化に国民意識はどのように作用しているのだろうか。
まず、希望する「最期の居場所」に関する国民意識について2010年頃以降の状況を確認する。
2007年度・2012年度の内閣府「高齢者の健康に関する意識調査」、2018年度・2023年度の内閣府「高齢者の住宅と生活環境に関する調査」(以下、内閣府調査と呼ぶ)では、希望する「最期の居場所」について調査している。
各年度とも「自宅」と回答した割合が最も高く「医療施設」「介護施設」を上回っていると分かる。また、構成比の経年変化をみると「医療施設」の割合は増加しており、「自宅」の割合は低下していた。また、「介護施設」の割合は横ばいで推移していることが分かる。
一方、希望する「最期の居場所」の調査には、具体的なシチュエーションを明示して調査を実施したものもある。
2012年度・2017年度・2022年度の厚生労働省「人生の最終段階における医療・ケアに関する意識調査」(以下、厚労省調査と呼ぶ)では「人生の最終段階において最期を迎えたい場所」などについてケースごとの調査が実施されている。
厚労省調査の結果を確認すると、内閣府調査と異なり必ずしも「自宅」が最も高い割合ではない。ケースによって構成比に差異が認められ、「医療機関」「介護施設」が最も割合が高い場合もあることが分かる。
ケースごとに経年的な構成比の差異を確認すると、まずケース1は末期がんで日常生活動作の一部に部分的介助が必要な場合などを想定した設問だが、2012年度・2022年度は「医療機関」と回答した割合が最も高く、2017年度は「自宅」と回答した割合が最も高い。各年度とも最も低かったのは「介護施設」であった。
また、ケース2は重度の心臓病で日常生活動作の一部に部分的介助が必要な場合などを想定した設問だが、各年度とも「医療機関」が最も高かった。
ケース3は認知症で見当識の低下などが認められる場合などを想定した設問だが、各年度とも最も高いのは「介護施設」で、最も低いのは「自宅」であった。
なお、3ケースの構成比の差異を年度ごとに確認すると、各年度とも「自宅」と回答した割合は心臓病(ケース2)・認知症(ケース3)より末期がん(ケース1)の方が高かった。
また、「介護施設」と回答した割合は、各年度とも末期がん(ケース1)・心臓病(ケース2)より認知症(ケース3)の方が高かった。
友居ら(2017)は希望する「最期の居場所」に関する複数の意識調査を分析し「先行研究を見る限り設定条件により結果はさまざま」だと示しており、結果を踏まえて「国民の死に対する意識がそれほど強固なものではなく条件によって揺らぎやすいものであることを示しているのではないか」と考察している。
また、友居(2018)は「最期の居場所」に関する国民意識を左右する条件について「個人的要因(性別・年齢・経済的余裕・情報認知度・死別に関わる経験)」と「環境要因(家族関係・社会的関係の広さ)」が「有意に関係していた」と示している。
確かに上述の内閣府調査・厚労省調査の結果も設問内容が調査ごとに異なることなどから「結果はさまざま」となっている。
また、上述の厚労省調査の結果では具体的なケースの違いによって希望する「最期の居場所」に変化が認められている。
希望する「最期の居場所」に関する国民意識は2010年頃以降においても絶対的なものではなく、「個人的要因」「環境的要因」などに左右されながら、おかれた状況などによって揺れ動くものだと考えられるだろう。