CEO自ら「AI伝道師」に変身しバイブコーディング

ランガン氏自身も「AIの大ファン」を公言し、日常的に複数のAIツールを使いこなしています。ミーティングの準備には自社の「HubSpot Copilot」を、深いリサーチにはChatGPTを、そして原稿作成にはClaudeを、といった具合です。

さらに驚くべきは、仕事の枠を超えて「バイブコーディング」を楽しんでいることです。

「作りたいものの雰囲気を自然な言葉で伝えるだけで、AIがコードを書いてくれるんです。趣味のアプリを作ったりして楽しんでいますよ」と屈託なく笑います。

彼女はこの情熱を社内にも広げています。毎週金曜日に行われる全社ミーティングで、自らのAI活用術をデモンストレーションし、社員に学びと刺激を与えているのです。

「他の人がAIを活用しているのを見ると、自分たちがどう使えばいいか具体的にイメージしやすくなります。みんなで学び、刺激し合うことが、AIと共に成長していく企業文化を育む唯一の方法なのです」

営業はAI同士が話せば済んでしまう?

営業やカスタマーサポートの領域でも、AIは革命的な変化をもたらします。

営業担当者が顧客と向き合う時間は、これまで業務全体のわずか20〜30%と言われてきました。残りの時間は、リサーチやメール作成といった付帯業務に費やされていたからです。

AIはこれらの作業を代行し、営業担当者が最も価値ある「顧客との対話」に集中できる環境を創出します。

HubSpotのようなCRM(顧客関係管理)ツールも、手動でのデータ入力が中心の旧来の姿から、AIが会話やメールの文脈を自動で読み取り、次のアクションを提案するインテリジェントなパートナーへと進化していきます。

アメリカなどではすでに顧客に飛び込み電話をするAIエージェントと、それに応答するAIエージェントがあり、営業の初期段階はAIだけで行われている現実もあるようです。

ただランガン氏は、そうした動きは現実的ではないと否定します。

「営業は、人と人とのつながりです。顧客の具体的な悩みや課題を深く理解し、その解決をいかに手助けできるか。それが営業の醍醐味です。

AIは、その本質的な価値を高めるための補完的な存在。AIが人間を助け、より良い『人とのつながり』を築けるようにする。それこそが、私たちが目指すべき現実的な未来です」

この思想は、カスタマーサポートにおいても同様です。

航空会社に電話して長時間待たされるといった、誰もが経験したことのある不快な体験は、AIによって過去のものになるかもしれません。

簡単な問い合わせはAIが即座に解決し、人間はより複雑で共感を必要とする問題に集中します。HubSpotの顧客の中には、すでにサポート案件の80%をAIで処理している企業もあるといいます。

過剰な期待やいたずらな恐怖心から距離を置き、顧客の課題解決という原点に立ち返る。

AI時代のビジネスリーダーに求められるのは、まさにそのような地に足のついた視点なのかもしれません。

※この記事はTBS CROSS DIG with Bloombergで配信した「1on1」の内容を抜粋したものです。