採用活動も「あの手・この手」

自衛隊は新たな隊員の採用活動に必死だ。
例えば、冒頭で紹介した富士総合火力演習は一般への公開を取りやめる代わりに、将来、自衛官を目指してくれるであろう青少年や学生などを対象に全国への「招待枠」を増やしている。
演習の中ではより自衛隊の魅力をアピールするため、戦車が目の前を横切るような迫力を感じさせる演出を盛り込むなどしている。
陸上自衛隊トップの森下泰臣陸幕長は「総合火力演習に限らず、各種の自衛隊関連のイベントに参加していただくことが、募集・採用に一定の効果があるものと認識をしている」と話していて、実際にこうした取り組みは採用に効果が出ているというのだ。
森下泰臣陸上幕僚長(2025年5月22日の定例会見)
「約8割の入隊者は何らかのイベントに参加したという経験があるという(アンケートで)回答を得ています」
「約1割弱は、総合火力演習に参加したということであります。(中略)しっかりと採用に繋がっているという効果はあるものとして引き続き実施をしていきたい」
採用に力を入れる取り組みは陸上自衛隊だけではない。
海上自衛隊の採用活動のSNSアカウントでは去年12月から“異様な光景”がうかがえる。

これまで、隊員の生活や任務の紹介などに特化していた投稿に、突如として謎の「ゆるキャラ」が登場。オリジナル曲を配信したり、49種類ものキャラクターを登場させ、海上自衛官の任務や活動をよりポップに紹介している。
筆者はどうしてもこの「ゆるキャラ」の存在が気になり、海上自衛隊トップの齋藤聡海上幕僚長に聞いてみたことがある。

筆者
「今回こういったキャラクター等を採用活動に利用する背景等ご解説を」
齋藤聡 海上幕僚長
「ご承知のとおり、海上自衛隊は陸・海・空の中でも一番人気が低い。ちょっと尖っている広報が必要じゃないかと考えて行った状況であります」
筆者
「キャラクターが49種類もいるが、ちなみに海幕長のお気に入りのキャラクターは」
齋藤聡 海上幕僚長
「49種類、各職種に応じたキャラクターが備わっていると認識しております。海上幕僚長の立場でどのキャラクターがというと大変問題になりますのでこの場では差し控えさせていただきたいと思います」
(2025年2月25日の定例会見でのやりとりの要旨を抜粋)
海幕長は含み笑いを浮かべてこのように答えた。
採用担当者によれば「若い世代からの反応は確実に現れている」ということだ。
取材を続けているが、海幕長の“推し”は現在も分かっていないー。
航空自衛隊は全国の基地で開催されている航空祭でブルーインパルスや航空機のパイロットと観客たちの交流の場面を増やすなど、自衛官の仕事の魅力をよりダイレクトに伝えることに尽力している。
自衛官が不足している現状は日本を取り巻く安全保障に大きな影響を与えかねない。
私たちが自衛隊の活動をより感じる機会でもある、災害派遣などの人命救出活動にも支障が出る可能性もある。
石破総理は「防衛力の最大の基盤は人だ」と強調しているが、その「基盤」をこのまま失ってしまうのかー。
「防衛力の抜本強化」に向けて必要なのは、最新の装備品だけではない。
政府の本気度はこれからも問われていくことになる。
TBS報道局政治部・防衛省担当 渡部将伍