最近、米国に偏ったリスクをどれくらい低減できるかが議論になる。

トランプ政権で米国第一主義が進み、またAIバブルも懸念される中で、日本にはどのような戦略があり得るのだろうか。

自国第一主義に突き進む米国

最近の米国は、国際ルールを無視する動きが目立つ。一方的な関税強化やルール変更はWTO上の違法性が指摘されるが、弱者は従わざるを得ない現実もある。

長期的には米国離れが進むだろうが、同時に中国離れも止まらない。その結果、グローバルサウスなど第三国との連携強化は世界の必然的潮流になる。

ただし、日本にとって米国は唯一の軍事同盟国であり、最大の経済的パートナーでもある。他国に代替を求めることは難しい。

成長し続ける米国の魅力

一方で、米国の魅力は圧倒的だ。米国野球界では来年からロボット審判が導入されるという。常識が大きく変わるが、米国はこうした革新を平然と受け入れる。

米国政府も社会・経済構造の大転換に踏み込む。関税による製造業復活、資源国の強みを活かした化石燃料の増産、ドル覇権維持を狙うステーブルコイン普及など、既存の秩序に縛られない政策を次々と打ち出す。

また、トランプ大統領と言えば化石燃料のイメージが強いが、AIによる電力需要増への対応から、原子力発電の規制緩和など、エネルギー政策の転換も進める。

米国には、巨大な需要、安価なエネルギー、イノベーションを常に生み出すエコシステムが揃う。いずれにも乏しい日本から見て、米国の魅力は衰えない。

米国の吸引力に負けないために

高市政権は官民連携で危機管理投資を進め、高圧経済を維持しながら社会変革を図ろうとしている。

る程度のインフレ容認は人手不足をさらに促し、企業は省力化投資を加速、労働者も生産性が高く賃金水準の高い分野へ移動することで供給力を引き上げるという戦略だ。

だが人手不足は前倒しで深刻化する。状況が悪化してから動くのは簡単だが、前倒しで民間は動けるのか。

民間は長い間、設備投資や研究開発、人的資本投資を本格化できず、また人口減少や少子化にも十分に対応できなかった。また、米国の魅力は圧倒的で、このままでは日本のマネーや企業がどんどん吸い寄せられてしまう。

だからこそ高市政権は高圧経済のもと危機管理投資を動かし始めた。この中には、厳しさを増す安全保障・経済安保環境に対する危機感だけでなく、国主導で民間を動かさなければ、深刻化する人口減少社会などに対応できないという危機感も含まれる。

外圧こそ最大の改革装置

今回の関税問題でも「決裂」は初めからあり得ず、交渉は関係強化の文脈にあったと見るべきだ。

重要なのは、今回の合意を単なる「対米従属」で終わらせず、「対米依存しつつも戦略的に利用する」という日本の意思を示すことだ。

米国が提示した投資枠をうまく活用し、国内の産業構造の転換や国内投資拡大につなげ、将来の国力と競争力を高める。こうした「二段階戦略」が不可欠だ。

動かない・変わらない日本にとって、外圧はしばしば最強の改革装置となる。明治維新や戦後復興、90年代後半の金融ビッグバンも外圧が変革を促した。

今回の80兆円という「外圧」も、日本の構造転換に活かさねばならない。意思と戦略を欠けば日本は米国の「金づる」で終わってしまう。今こそ覚悟が問われる。

国内の可能性を示すこと

国主導の色合いが強い高市政権の政策は、通常なら動き出しにかなりの時間を要する。つまり、26年度予算案は石破政権下で組まれたものであり、本格的な高市カラーは、来年の骨太方針を経て、27年度予算に反映される。

問題は、こうした通常の時間軸では遅すぎることだ。できるだけ前倒しで具体的な政策を打ち出せなければ、長期金利の上昇や、円安、止まらないインフレが、政権運営の大きな障壁となりうる。

ただ、足元ではフォローの動きもある。原発再稼働や南鳥島沖でのレアアース試掘、国内半導体生産の動きなど、日本国内の産業基盤の局面を変え、民間が「期待」を持ちうるネタも出始めている。

実績を残すには時間を要するとしても、民間が将来に「期待」を持ち、それが強まるような具体策を示すことが、高市政権に対して求められる短期的な絶対条件となる。

逆に、政治の時間軸や民間の姿勢が変わらなければ、米国リスクどころか、日本リスクが顕在化しかねないことにも、留意する必要があるだろう。

※情報提供、記事執筆:ニッセイ基礎研究所 総合政策研究部 専務理事 エグゼクティブ・フェロー・経済研究部 兼任 矢嶋 康次