日本の全年齢層で消費が減退している

相対的に消費水準が低い高齢者の割合が高まることは、需要面から経済成長率の低下圧力となる可能性がある。

総務省統計局の「家計調査(二人以上世帯)」を用いて、世帯主の年齢階級別の消費水準(2024年)を確認すると、消費水準のピークは50~54歳で、55歳以上は年齢が高くなるほど消費水準が低下している。また、世帯主が65歳以上の高齢者世帯の割合は1970年の6%から2024年には44%まで上昇している。

個人消費の伸びは長期にわたり低迷している。総務省統計局の「家計調査(二人以上世帯)」によれば、一世帯当たりの実質消費支出の伸び(年平均)は1970年代の2.4%から1980年代が0.7%、1990年代が▲0.3%、2000年代が▲0.6%、2010年以降が▲0.7%と低下傾向が続いている。

これを年齢階級別の実質消費支出の変化と世帯主の年齢構成の変化に要因分解すると、年齢階級別の実質消費支出の変化は1980年代までは押し上げ要因となっていた。しかし、1990年代に押し下げ要因に転じた後、押し下げ幅の拡大が続き、2010年以降は年平均▲0.6%となっている。

年齢構成の変化についても、1980年代までは押し上げ要因、1990年代以降は押し下げ要因となっているが、実質消費支出の伸び率に対する寄与度は1990年代が年平均▲0.2%、2000年代が同▲0.2%、2010年以降が同▲0.1%と小さく、押し下げ幅が拡大しているわけではない。

1990年代以降は、高齢化の影響が消費の伸びを抑制していることは確かだが、押し下げ幅は限定的である。実質消費支出の伸びが長期にわたって低迷している主因は、各年齢階級の消費が減少を続けていることである。

実は経済低迷に「高齢化」は響いていない

高齢化の進展は一人当たりGDP成長率の押し下げ要因となりうるが、少なくとも現在まではその影響は限定的である。

高齢化の影響がそれほど大きなものとなっていない一因として、健康寿命の延伸や様々な政策・制度変更に伴い、高齢者の属性が時代とともに変化していることが挙げられる。

たとえば、年齢階級別の賃金水準を時系列でみると、他の年齢層と比べた高齢者の相対的な賃金水準はかつてに比べて上昇しており、このことは高齢者の相対的な労働生産性が従来よりも高くなっている可能性を示唆する。

また、1970年時点では65歳以上世帯の消費水準は全世帯平均の8割以下だったが、2024年には9割弱まで上昇している。高齢者比率の上昇が消費全体の押し下げ要因となっているものの、高齢者世帯の相対的な消費水準の上昇がその影響を緩和している。

人口減少が国全体の経済成長率を一定程度抑制することは確かだが、日本の経済成長率が長期にわたって停滞している主因は、一人当たりGDP成長率の低下であり、人口減少や高齢化の影響は限定的である。

日本経済が長期停滞から抜け出すためには、人口減少や高齢化を巡る過度な悲観論を払拭することも必要と考えられる。

(※情報提供、記事執筆:ニッセイ基礎研究所 経済研究部 経済調査部長
斎藤太郎)