初心者のマリオプレーヤーが最初に何度も落ち続けるように、任天堂のニュースサイクルはこの数カ月、不運なループにはまり込んでいる。

米年末商戦の不振との観測や関税を巡る懸念、メモリー価格急騰にどう対処するのかという不安もある。直近では、人工知能(AI)が同社、ひいてはゲーム業界全体を廃業に追い込むのではないかという見通しを巡り、市場が小規模ながらパニックに陥る場面さえあった。

こうした材料が重なり、任天堂の株価動向は低迷している。3日の東京市場で、日経平均株価が最高値を更新したにもかかわらず、任天堂の株価は昨年8月の高値からなお3割ほど安い水準にある。

2025年6月に発売された家庭用ゲーム機「スイッチ2」にとって最初の、そして極めて重要な年末商戦期の決算も、この流れを変えないかもしれない。

利益は市場予想を下回り、同社はいつも通りに慎重な通期見通しを据え置いた。引き上げを見込んでいたアナリストにとっては意外だった。

 

しかし、投資家はその先を見るべきだ。スイッチ2はすでに1700万台余り売れ、初代スイッチを大きく上回るペースで販売が伸びている。

その初代機も累計1億5500万台超と、任天堂史上最も売れたゲーム機であることが3日、正式に確認された。後継機も最も重要な点を正しく押さえられれば、同様の成果を上げる可能性は十分にある。

ただし、それはメモリーではない。古川俊太郎社長は3日の記者会見で、来期(2026年4月-27年3月)にメモリー価格が利益に影響する可能性を認めた。しかし、メモリーが重要部品であるのは確かでも、在庫や長期契約、収益性の高いソフトとハードのミックスといった緩衝材があるとアナリストらは指摘している。

ジェフリーズのアナリスト、アトゥル・ゴヤル氏は最近、メモリー価格の上昇が続いた場合の影響を保守的に見積もり、来期の利益に1%、27年4月からの1年間に10%のインパクトがあるとの推計を示した。

興味深いことに、古川氏はすでにやや高価格帯とされるスイッチ2について、値上げの可能性を排除しなかった。日本以外では販売が若干低調だとも説明した。

古川氏が18年に社長に就任する直前、前任の君島達己氏は、任天堂が今まさに直面している課題に触れていた。初代スイッチについて「ゲーム専用機ビジネスは、2年目が重要」と投資家に語り、「2年目はハードウエア発売当初の目新しさ」に頼ることができず、「本当の実力が試される」との認識を示していた。

初代スイッチは、ゲームソフトのヒット作を継続的に投入することでその試練を乗り越えた。後継機に求められているのも、まさにそれだ。

次のステージ

スイッチ2は素晴らしいハードウエアだ。筆者は発売初日に購入したが、任天堂がこのゲーム機の仕様をいかに見事にまとめ上げたかは、いくら強調してもし過ぎることはない。

だが、これまでのソフトは物足りない。「マリオカート ワールド」や「ドンキーコング バナンザ」にはすぐ飽きてしまった。いずれも、実装よりもコンセプトの方が面白い。

年末の目玉である「メトロイドプライム4 ビヨンド」は、紆余(うよ)曲折あった長期の開発を反映したアイデアの寄せ集めだ。制作が一度白紙となり、別のスタジオに移された経緯がある(3日の決算資料にメトロイドが見当たらなかったことも、売れ行きが振るわなかった可能性を示唆している)。

サードパーティーのゲームが勢いをもたらすのは確実だ。カプコンの新作「バイオハザード レクイエム」のような一流タイトルが、カプコンのより高性能なハードウエア向けと同じ日にスイッチ2用にも発売されるというのは驚くべきことだ。

だが、任天堂の経営陣は誰よりも分かっている。人々が任天堂のゲーム機を買うのは、任天堂のゲームを遊ぶためだということを。そして今年のラインアップはかなり手薄だ。

初代スイッチは、前世代機「Wii U」向けに発売された、あるいは当初はWii U向けに開発されていたがWii Uの失敗後にスイッチ向けに移されたタイトルの恩恵を受けた。

とはいえ、ここ数年の任天堂における最大の進歩の1つは、発売時期を巧みにずらす能力と、開発中のソフトに関する情報を完成するまで絶対に外に漏らさない姿勢だ。

米アップルのスマートフォン「iPhone」は、新型が正式にお披露目される前に、アップデートされた内容がほぼ全て事前に漏れてしまう。それを思えば、絶対的な秘匿がいかに難しいかが分かるだろう。

それでも、それに伴うサプライズはゲーマーにはうれしいが、任天堂の行方が見えにくい投資家にとっては必ずしも好まいことではないのかもしれない。だからこそ、俯瞰(ふかん)した視点を持ち、思い切って一歩を踏み出す覚悟が重要だ。

任天堂には活用できる経営資源が豊富にある。「あつまれ どうぶつの森」最新版から約6年、「大乱闘スマッシュブラザーズ」からは7年、主要な3Dマリオ作品からは8年が経過した(新作映画「ザ・スーパーマリオギャラクシー・ムービー」の公開に合わせて発売されるタイトルがあってもよさそうだ)。

「ピクミン」や「スプラトゥーン」など、ここ数年で存在感を高めた中堅フランチャイズも数多い。投資家は、あらゆる市場のうわさに身構えるのではなく、忍耐を保ち、AIの誇大宣伝や価格サイクルの先にある次の新作発表のタイミングに目を向けるべきだ。

ゲーム業界は今年、異例な年となりそうだ。スタジオ各社が11月発売予定の「グランド・セフト・オートVI」との競合を避けようとしているが、任天堂は、その中で数少ない対抗できる企業の1社だ。

スイッチ2はすでに最初のステージをクリアした。次の試練は常に待ち受けている。そして良いゲームでは、難易度は常に上がっていく。

(リーディー・ガロウド氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、日本と韓国、北朝鮮を担当しています。以前は北アジアのブレーキングニュースチームを率い、東京支局の副支局長でした。このコラムの内容は個人の意見で、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:Nintendo Investors Should Watch Mario, Not Memory: Gearoid Reidy(抜粋)

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