中国の中堅自動車メーカー、賽力斯集団(セレス・グループ)はかつては3万元(約60万円)のミニバンで知られていた。だが、わずか4年足らずで、ドイツのBMWやメルセデス・ベンツグループといった老舗ブランドを追い抜き、中国で最も注目される高級車メーカーとなった。

DFSKモーターと以前呼ばれていたセレスは、通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)と2021年に提携し、高級電気自動車(EV)・ハイブリッド車スポーツタイプ多目的車(SUV)ブランド「アイト(Aito)」を立ち上げた。

その後、セレスは急成長を遂げ、販売台数は3年後に3倍に増え、24年には約42万7000台を記録。上海証券取引所に上場している同社の株価は120%値上がりしている。

アイトの人気モデル「M9」は23年末に発売されたが、24年には50万元以上の価格帯でベストセラーとなった。広い室内空間が売りのM9はファーウェイの基本ソフト(OS)「ハーモニー」を搭載。3スクリーンのダッシュボードや冷蔵庫、アンビエントライトなどのオプションを備えている。

上海を拠点とする自動車コンサルティング会社シンカーカーのデータによると、M9の納車台数は約15万1000台。M9の最も基本的なバッテリーEV(BEV)モデルは50万9800元からだ。

スマホメーカーの成功

独フォルクスワーゲン(VW)や米ゼネラル・モーターズ(GM)といった外国勢はEV化の波に乗り遅れているが、中国の高級車セグメントは電動化の影響を比較的受けにくい最後の市場と見なされていた。

新興のEVメーカーが、これらの老舗メーカーのブランド力に匹敵することはないと考えられていたが、アイトはその考えを覆し、中国人消費者の高級車志向が変化していることを示した。

これはまた、スマートフォンメーカーでもあるファーウェイと小米(シャオミ)が果たした成功の証左でもある。両社が約4年前にEV市場への参入を検討し始めた際、懐疑的な見方が多かった。小米のセダン「SU7」は今年3月に発生した高速道路での死亡事故の影響を受けたものの、需要は堅調だ。

 

しかし、セレスは課題も抱えている。シンカーカーのデータによれば、中国の高級車市場は24年に23%縮小。国内経済の低迷と消費者心理の悪化が響いた。

価格競争も続いている。25年型M9の多くで価格が1万-2万元引き下げられた。アイトは後れを取り始め、1-2月にはメルセデスが2万2160台、BMWが1万8130台を納車し、アイトの1万7190台を上回った。セレス全体の販売も1-3月に42%減少した。

ファーウェイとの提携に関連した課題もある。同社は他の自動車メーカーとも車載ソフトウエアで同じような契約を結んでおり、奇瑞汽車と「ルクシード(Luxeed)」、北京汽車とは「ステラト(Stelato)」と、高級市場をターゲットとしたEV事業を展開している。

これにより、製品の同質化や共倒れへの懸念が生じており、BMWなどの欧州勢でさえ、ファーウェイとの連携で車内にインテリジェント機能を搭載している。

ファーウェイの消費者事業グループを統括する余承東氏は昨年9月の製品発表会で、「ブランドを構築するたびに多大な努力が必要だが、高級ブランドではなおさらだ」と指摘。「われわれは諦めず、粘り強く取り組み続ける」とし、同社はアイトだけでなく、タイアップする全ての自動車ブランドを成功させる決意だと述べた。

原題:Chinese Luxury Carmaker Seres Comes From Behind to Overtake BMW(抜粋)

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