10日に実施される5年利付国債入札は、国内政治の不透明感で日本銀行の追加利上げ時期が後ずれするとの見方が広がっており、投資家の需要は堅調になると見込まれている。

石破茂首相の退陣表明後に初めて行われる国債入札(流動性供給入札除く)は、金融政策の動向に敏感と言われる中期ゾーンの5年債で、投資家の日銀に対する見方を表す目安にもなる。新発5年債利回りは9日、1.095%と8月中旬以来の低水準まで下がった。

三菱UFJモルガン・スタンレー証券の六車治美チーフ債券ストラテジストは「5年債入札は無難にこなされる可能性が高い」と予測。政治状況に不透明感が残る一方、「日銀の年内利上げ観測が後退しており、いったん中短期セクターの需給はしっかりとした展開が想定される」と言う。

石破首相辞任で行われる自民党総裁選は22日告示、10月4日投開票の日程で固まり、10日の総務会で正式に決まる。政治流動化への警戒が当面続くため、市場関係者は日銀の利上げ時期が遅れるとの見方を強めており、オーバーナイト・インデックス・スワップ(OIS)市場が織り込む10月までの利上げ確率は足元で約35%と、1週間前の約41%から低下した。

明治安田アセットマネジメント債券運用部の大崎秀一シニア・ポートフォリオ・マネジャーは、石破首相の辞任表明で「日銀の利上げが10月から来年1月にずれ込む可能性が意識されている」と指摘。5年債入札も「足元の利回り水準であれば、無難に消化される」と見込む。

次期自民党総裁の有力候補と市場でみられている高市早苗前経済安全保障担当相は、財政出動と金融緩和の継続による経済成長重視の立場で、日銀の追加利上げに対し慎重な姿勢で臨む可能性がある。もう一人の有力候補である小泉進次郎農林水産相は現政権の考えを引き継ぎ、利上げを支持する可能性がある。

また、河野太郎前デジタル相は9日、ブルームバーグの英語インタビューに応じ、日銀はインフレ抑制や円の下支えに向け、利上げすべきだとの考えを示した。関係者によると、日銀は来週18、19日に開く金融政策決定会合では現状維持を決める公算が大きいものの、年内利上げの可能性は排除しない姿勢だ。

アクサ・インベストメント・マネージャーズの木村龍太郎シニア債券ストラテジストは、米労働市場の明確な減速を背景に、日銀は利上げにより慎重になると予測。また、高市氏が日銀に金融緩和の継続を求める可能性が高い点も、投資家がキャリー利回りを確保するために中期国債を買う動きを後押しすると述べた。

対照的に、少数与党の自民党次期総裁は国会運営で野党と協力する必要があり、財政支出を拡大するとの観測が強い。需給面では日銀が国債の買い入れを減額しているため、長期・超長期ゾーンの利回りは短中期ゾーンに比べ上昇ピッチが急。日本のイールドカーブ(利回り曲線)は、世界の主要市場の中で最もスティープ(傾斜)化している。

5年債入札の結果は10日午後0時35分に発表される。注目ポイントは投資家需要の強弱を反映する応札倍率だ。前回の入札では2020年以来の低水準を記録した。大きいと入札の不調を示すテール(落札価格の最低と平均の差)の動向にも投資家は注視している。

5年債入札を順調に通過したとしても、財政懸念が超長期債に重くのしかかり、投資家は今月後半に実施される20年、40年債入札に警戒感を維持する。今週前半には日本の長期債が急落し、5年債と30年債の利回り差が拡大した。

アクサの木村氏は、自民党総裁選の結果と政府の財政政策を決定する与党間の連立協議を巡り、今後数週間は特に超長期国債利回りのボラティリティーが高まる可能性が高いと指摘した。

--取材協力:清原真里、日高正裕、山中英典.

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