11日前、トランプ米大統領がウクライナでの30日間の停戦を呼びかけ、ロシアへの新たな制裁を警告したことで、欧州の指導者らは希望を抱いた。しかし、19日に行われたロシアのプーチン大統領との電話会談で、その期待は裏切られたことが明らかになった。

プーチン氏との2時間に及ぶ電話会談後、トランプ氏は自身のSNSで「ロシアとウクライナは、即時に停戦に向けた交渉を開始する」と投稿。ただ、米国の関与は見られず、制裁の警告も、期限に関する要求も、プーチン氏に対する圧力もなかった。

トランプ氏は電話会談後に欧州各国の指導者らと連絡を取ったが、すでに幾つかの政府から失望の声が上がった。数カ月にわたりプーチン氏を和平合意に導けなかったことを受け、トランプ氏が戦争終結への取り組みを放棄し、ウクライナとその同盟国を見捨てるのではないかと欧州各国は危惧している。

欧州高官の1人が非公開協議だとして匿名を条件に語ったところによると、トランプ氏が外交努力から手を引こうとしていることを各国指導者は懸念しているという。また、別の高官は、トランプ氏は制裁を科すつもりがないことに加え、自らの停戦呼びかけからも退いていることを明確にしたと語った。

米ワシントンに本部を置くシンクタンク、ジャーマン・マーシャル財団の「ジオストラテジー・ノース」プログラムのマネジングディレクター、クリスティン・ベルジナ氏は「プーチン氏が自身および自国軍にさらなる時間を稼いでいるという、より長期的なシナリオに戻ったようだ」とし、「プーチン氏が新たな機会を得た一方、停戦や解決はますます遠のいているように見受けられる」と話した。

トランプ氏は19日遅く、米国はこの紛争を巡る協議から退くわけではないが、その可能性を検討中であり「特定の一線」があると述べた。詳細は明かさなかった。またロシアへの追加制裁やウクライナへの新たな武器供与を否定しなかったものの、どちらにも消極的な姿勢を示した。

ホワイトハウスで「何かが起こると思うし、何も起こらなければ私は手を引くだけだ。彼らはこのまま突き進むしかない」とし、「これは欧州の問題だ。本来なら欧州の問題のままであるべきだった」とした。

このような発言は米国の姿勢を巡る混乱に拍車をかけており、トランプ氏が抱える政治的課題をさらに深刻にしている。トランプ氏は欧州と中東に迅速に平和をもたらし、関税措置を通じて米経済を再建すると選挙戦で公約したが、いずれも地政学と貿易を巡る現実に阻まれている。

また、ウクライナでの戦争終結に向けた自身の役割についても曖昧さが強まった。トランプ氏は先週末、記者団に対し「私とプーチン氏が会うまでは、何も起こらない」と語り、米国は「ロシア、ウクライナ間の和平確保に尽力する」と述べていた。さらに、トルコのイスタンブールに立ち寄ってプーチンと直接会談する意思があることも示唆していた。

だが、ロシアがイスタンブールでの協議に比較的低位の代表団のみを派遣する中、トランプ氏は現れなかった。2022年2月のロシアによる全面侵攻以来初の直接対話となった同協議では、ロシアとウクライナの当局者が捕虜交換に合意したものの、それ以外の進展は見られなかった。

ウクライナのゼレンスキー大統領は、トランプ氏が求める即時停戦にすでに同意しており、プーチン氏との電話会談前後にトランプ氏と会談。ロシアが停戦に応じない場合は制裁強化が必要だと訴えたが、トランプ氏はその考えに同調しなかったばかりか、ゼレンスキー氏について「扱いやすい人物ではない」とも述べた。

プーチン氏はソチで記者団に対し、19日のトランプ氏との電話会談は「率直かつ非常に有意義な」話し合いだったとし、ロシアが将来の和平協定に向けてウクライナと覚書の詳細を詰める作業に取り組むことでトランプ氏と合意したと説明。詳細は明かさなかったが、「われわれにとって最も重要なのは、この危機の根本原因を取り除くことだ」と述べた。

米有力シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)のロシア・ユーラシア担当シニアフェロー、マリア・スネゴバヤ氏は、プーチン氏の視点では「それは現在の形のウクライナ国家の存在そのものを含む」と分析。「ロシアは表向きは交渉に前向きで、米国の取り組みを歓迎する姿勢を見せている。これは米政府を刺激しないためだが、実際には、当初の立場をかたくなに守り続けている」と話した。

予想外だったのは、バチカンが和平交渉の仲介に意欲を示しているとトランプ氏が明らかにしたことだ。新教皇に選出されたレオ14世がウクライナ和平に貢献できるかとホワイトハウスで問われたのに対し、トランプ氏は「そうだ」と応じた。プーチン氏が和平を望んでいると確信しているかとの質問にも同様に答えた。

米国の元駐ウクライナ大使で現在アトランティック・カウンシルのユーラシア・センターでシニアディレクターを務めるジョン・ハーブスト氏は、トランプ氏に利用する用意があれば、米国はロシアに対して強力な切り札を持つとし、米政府は「ウクライナへの大規模な軍備品供給のパイプラインを開く」だけでなく、より厳しい制裁を科すことも可能だと述べた。

19日の電話会談に先立ち、トランプ氏の有力な支持者である共和党のグラム上院議員は、制裁パッケージへの支持を呼びかけ、ロシアを罰するための超党派の支持があることをプーチン氏に示した。同党のスーン上院院内総務は19日、ロシア制裁法案はすぐにでも可決可能な状態にあると強調。「ホワイトハウスがより厳しい制裁が必要だと判断すれば、その用意ができている」と語った。

原題:Trump Hands Putin Win With Retreat From Ukraine Peace Talks (1)(抜粋)

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--取材協力:Arne Delfs、Daryna Krasnolutska.

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