賃金の動向を巡って、市場関係者が頭を悩ませている。

厚生労働省の公表する毎月勤労統計によれば、所定内給与(一般労働者・共通事業所ベース)の伸び率は1月:+2.9%の後、2月:+2.0%、3月:+2.0%と2、3月に急減速した。

ほかの賃金関連統計も用いながら、この謎に迫りたい。

全数調査の社会保障統計で24年度の動向を確認してみる

まず、紹介したいのはEconomic Trends「社会保障事業統計による賃金把握の課題~標準報酬上限をはじめ様々なクセに留意する必要~」(2024年6月4日)で紹介した社会保障統計を用いた賃金動向の分析だ。

毎月勤労統計は標本調査であるため、常にサンプルの偏り(賃上げをしている・していない企業に集計対象が偏るなど)による誤差の問題が付きまとう。
それに対して、社会保障の事業統計は厚生年金保険や健康保険に加入するすべての人を対象とした全数調査だ。社会保険料の算定に用いられる標準報酬月額の平均値も公表されており、これは賞与を除いた固定給部分の月給額に概念的に近いものになる。

制度改正に伴う要因などについて一定の調整を加えたうえで、伸び率の推移を見る。
現時点で公表されている厚生年金保険の平均標準報酬月額は23年度+1.5%→24年度+2.0%に加速。より実勢賃金に近いと考えられる健康保険の平均標準報酬月額の値は、執筆時点で一部(組合健保分)が未公表である。

そこで、23年度の厚生年金との差異等をもとに延伸した値を示している。得られた数値をもとにした24年度の伸び率は+ 2.4%と、2%台半ば程度となる。先に見た毎月勤労統計の示唆する24年度伸び率の水準感、3%弱程度よりも1ノッチ低いイメージになる。

よくわからないのは24年度の賃金実勢

毎月勤労統計、賃金構造基本統計調査、ナウキャストの公表するHrog賃金Now(求人データを用いた募集賃金)、健康保険の標準報酬、連合調査における春闘ベースアップ率の5つの賃金統計におけるフルタイム労働者の基本給について、23年度、24年度の伸び率を比較する。

23年度は各統計間のギャップは軽微であり、おおむね2%程度の賃金上昇が生じた、と違和感なく判断できる状況にあった。

しかし、一転して24年度はバラバラであり、統計によって2%弱〜3%台後半まで開きが出てしまっている。
それぞれの統計の補足範囲は異なるので、単純比較が適していない面もあるのだが、賃金実勢がどこにあるのか、わかりにくい状況になっていることは確かであろう。

筆者はこの中では全数調査の健康保険の統計が信頼性は高いと考えており、賃金は毎月勤労統計ほど伸びていなかったのでは?という考えを持っている。
先に述べたように組合健保分(9月の定時改定後の値)は未公表で推定値になっているので、後日公表された数字を見て必要に応じて再度検証してみたい。