自動車の普及に向けた政策的対応が必要に
インドとインドネシア政府には、「自動車普及の天井」をもたらす制約を緩和する政策が期待される。高い人口密度の悪影響緩和に向けて、①道路インフラの整備や公共交通の充実化による渋滞の緩和、②立体駐車場の整備を通じた駐車スペースの確保、などに取り組むことが有効である。両国の道路インフラは、他のアジア諸国や先進主要国に比べて整備が大きく遅れている状況であり、改善の余地が大きい。

また、EVシフトが自動車市場の停滞につながらぬよう、脱炭素化の大きな流れのなかで電力供給体制の強化を進める必要がある。再生可能エネルギーなどのゼロ・エミッション電源の積極的な導入促進は欠かせないが、それだけで増大する電力需要をまかなうのは困難である。インド政府は火力発電所を増設する方針を表明しているが、その際、低効率の石炭火力発電から温室効果ガス排出の少ない形態(LNG・高効率石炭火力)に転換することで低炭素化を促していくことや、水素や二酸化炭素の回収・利用・貯留(CCUS)を用いて火力発電の脱炭素化も並行して行うことが重要である。同時に、HV(ハイブリッド車)やPHV(プラグ・イン・ハイブリッド車)、FCV(燃料電池車)の生産・販売拡大にも注力し、両国の電力キャパシティに応じた漸進的かつ計画的なEVシフトを進めることで、自動車市場の持続的な拡大を支えていくことが求められよう。
HVの推奨もEVシフトを円滑に進める有力な選択肢
以上のように、インド、インドネシアにおける自動車市場は、長期的には拡大する余地は大きいものの、①高い人口密度、②急速なEVシフト政策が制約となり、予想以上に早く「自動車普及の天井」に直面する可能性がある。
日本にとってもインド、インドネシアの自動車市場は重要であるだけに、両国の自動車普及を促進するための政策的支援を実施していくことは、日本政府や日本企業にとって有益である。高い人口密度の制約緩和に向けて、道路インフラや公共交通の整備に必要な金融支援、技術・ノウハウの提供、人材育成支援など、日本の官民が多方面で連携し、積極的に関与していくことが期待されよう。
EVシフトについては、電力キャパシティを考慮しながら慎重に進めていく必要があり、日本政府には、東日本大震災以降の、原子力発電所の稼働率低下により電力供給が制約されるなかでの経験を踏まえた助言が期待されよう。その際、火力発電の高効率化・脱炭素化の推進も重要となろう。
また、日本の自動車メーカーが得意とするHVをEVへの移行過程において推奨することも、EVシフトを円滑に進める有力な選択肢となり得る。そうしたエネルギー分野、自動車製造分野に強みをもつ日本企業は多く、両国における日本企業の事業拡大につなげることも可能だろう。
(※情報提供、記事執筆:日本総合研究所 調査部 副主任研究員 細井友洋、研究員 森田一至)