(2)「自動車普及の天井」の要因②:急速なEVシフト政策
第2に、急速なEVシフト政策も、今後の両国における自動車普及を阻害する要因となり得る。
世界的に環境志向が強まるなかで、インドとインドネシアは、環境保全と経済成長の両立を目指し、EVの普及に向けた野心的な目標を掲げ、EV振興政策を積極的に推進している。インドは2030年の乗用車販売台数のうち30%をEVとする目標を掲げており、インドネシアも2035年の自動車国内生産のうち30%をEVとすることを目指している。両国の自動車販売に占めるEVの割合が現時点で2%にも満たないことを踏まえると、これは非常に野心的な目標と言える。

急速なEVシフトを実現するため、両国政府は、原材料の確保、電池の製造、EVの生産と、産業の川上から川下に至る全般的な支援策を講じている。また、大気汚染や渋滞の解消に向けた規制も、EVの普及促進を企図した制度設計となっている。インドのデリー準州は、大気汚染の問題が深刻になった際、車両の交通規制を実施しており、大気質指数が一定レベルを超えた場合、排ガス規制基準に適合しないガソリン・ディーゼル車や、EV・ガス車以外のトラックの乗り入れを禁止している。インドネシアも、ジャカルタ首都圏における混雑時間帯のナンバープレート規制について、EVを対象外とする措置を講じているほか、国家公務員と州政府機関職員を対象に、毎週水曜日のガソリン車通勤を禁止している。

このように両国が重層的な対策を講じているにもかかわらず、EVの普及が目標どおりに進展するかは不透明である。別の研究では、EV普及を左右するエネルギー・財政関連の指標を基にした「EVシフトの円滑度指数」において、インドとインドネシアは、タイなど他のアジア諸国に比べてEV普及の制約が大きいことが示されている。具体的には、両国ともに電力供給が大きな制約要因となり、EV普及率が一定の水準に達すると、一段の普及が停滞する可能性が高いとされる。政府が税制優遇や規制を通じてEVを選択するよう消費者を誘導しても、電力不足によりEVの利便性が損なわれれば、消費者は自動二輪車の購入や公共交通の利用を選択し、自動車市場の成長が抑制される可能性が高まる。