(1)「自動車普及の天井」要因①:高い人口密度

第1に、高い人口密度が自動車普及を阻害している可能性がある。人口密度が高いほど交通渋滞の深刻化や駐車スペースの不足により、自動車の保有コストが大きく、自動車の普及を妨げると考えられる。過去の研究によれば、東京やスイスにおいては、人口密度と自動車普及率に負の相関関係があることが示されている。これを踏まえ、人口4,000万人以上の国を対象に、自動車普及率を人口密度と1人当たりGDPで回帰したところ、人口密度が100人/㎢大きくなると、自動車普及率は約31台少なくなるという結果が得られた。韓国と台湾における自動車普及率の伸び悩みについても、高い人口密度が寄与していると考えられる。

インドとインドネシアは、韓国と台湾よりも人口密度が高い都市を複数抱えており、そうした地域を中心に自動車普及率が構造的に下押しされていると考えられる。これは、両国の自動二輪車の販売が自動車に比べて堅調な理由でもあると考えられる。自動二輪車は、交通渋滞を回避しやすいほか、大きな駐車スペースも不要であることから、多くの消費者が移動・運搬手段として自動二輪車を選択しているとみられる。実際に、人口密度が高い台湾においては、自動車普及率が低迷する一方で、自動二輪車の普及率が非常に高い。台湾と同様に、インド、インドネシアにおいても、自動二輪車が選ばれやすい構造であると言える。

高い人口密度による下押し効果が続けば、両国の自動車市場の規模は長期的に制約されるおそれがある。所得、人口の展望を基にインドとインドネシアの長期的な自動車市場の規模を推計したところ、自動車普及率が韓国・台湾の平均(426.7台)で頭打ちになった場合、日本・米国の平均(729.0台)に到達した場合に比べて、2050年時点の自動車販売台数は4割程度少なくなる結果となった。これは、アジア地域全体の経済成長に大きなインパクトを及ぼすとともに、両国自動車市場の成長に期待を寄せる日本にとっても看過できない違いであると言える。